死に物狂い

他人から影響を受けやすい人間のフィクション日記

市川京太郎くんには幸せになってほしいなって(『僕の心のヤバイやつ』第3巻発売記念ポエム)

 私は僕ヤバを大体こんな気持ちで読んでいますという記事

 

 市川はさ、どういう少年時代を送ってきたのかなって思うことがあるんだ。いや、今もまだ中学生だし、まさに少年時代を送っている最中なんだから、そんなことを振り返るタイミングでは全くない気もするけれど。そうだな、だから、「僕は市川がどんな風に育ってきたのかが気になるんだ」って言ったほうが正しいかもしれないね。

 

 

 市川はさ、今の自分のことを陰キャって言うし、それは実際そうなのかもしれないね。クラス内で目立つ存在ではないし、何なら山田と触れ合うまで特定の誰かとつるんでもない。スクールカーストという枠組みで考えるのならば、決して上位でないことは事実なんだろう。でも、情報処理部に属してはいるし、クラスメイトとも完全に断絶しているわけでもない。カーストと言っても、この学校でそれが大きな役割を担っていることはなくて、まあ単に属するグループがどこか程度の話なんじゃないのかな。

 

 そもそもさ、陰キャ陽キャかなんていうのは、究極的にはあんまり意味のない話だと思うんだよ。だってさ市川。たとえ市川が本当にドのつく陰キャだった(僕はそう思わないけれど)としても、君が人の痛みを理解できるいいヤツだってことには何ら変わりはないんだから。幼少期にグロテスクな絵を書いたり、殺人本を学校で読んだりなんていうのは、まあ誰もが通る道とは言わないけれど、別にどうということでもないよ。それに何だかんだで家族仲もいいしさ。口が悪くなることもあるけど、ちゃんとお互いにコミュニケーションを取れてて……いやいや、そういうのは大事なんだよほんとに。それに勉強もできるし、頭の回転も早いし。あとはほら、山田が職員室で先生に怒られそうになったときあったじゃない。そのとき市川はハキハキと詭弁を宣ったよね。ああいう風に自分の意見(?)も述べられる人間なんだよ市川は。

 

 ところで、そういう市川の良いところを知れたのは、間違いなく山田のおかげでもあると思うんだ。僕はさ、山田と出会う前の市川がどんな人間だったのかを知らないし、だから冒頭にあんなこと書いたんだ。何で市川は自己認識が捻くれてるんだろうって不思議でさ。すぐにイジメられるんじゃないかって思考回路になるのは、もしかしたらトラウマになることがあったのかもしれないし、単に「お年頃」だからかもしれない。自意識の肥大化ってやつだ。ま、あまり考えても仕方ないね。ともあれ、市川の心に山田が住み着いたことによって、捻くれてた市川の心の壁が剥がされていった。いや、この言い方は正しくないね。山田の「おかげ」で、市川は少しずつでも自分の心と向き合えるようになったんじゃないのかな。

 

 

 市川はさ、山田と出会ってからずっと山田本位で動いているよね。もしかすると、そんな自覚はないかもしれないね。だって、山田本位なのは、市川にとっては自分本位な考えだろうから。もちろん、それは「山田に嫌われたくない」ということもあるだろうけど、それよりも「山田に悲しんでほしくない」という、純粋に他者を想う気持ちから来てると思うんだよ。そして大事なのはね市川、市川はそういう風に他者を想える人間だってことなんだ。

 

 僕は市川が「山田に出会ったからそういう人間になれた」とは思っていないよ。市川にとって山田が大きな存在なのは間違いないし、そんな存在に出会ったのは初めてのことかもしれない。でも山田と仲を深める以前から、ひたすらに女子の平和を望んでいてたり(これは女子に山田も含まれているからかもしれないけれど)、神崎くんの恋路を応援したり(これも山田からのメッセージがあったからといえるけれど)、自分とは全く関係のない人間に対しても、もともとそうやって気遣いのできる人間なんだよ。その意味ではさ、市川が「いい人だ」って評しているナンパイセンと、気質は変わらないんだよ。この言葉が褒め言葉に聞こえるかはわからないけれど。

 

 とにかくさ、市川は市川が思っているほど悪い人間じゃないよって、そう言いたいだけなんだ。まあ山田が言うなら違うんだろうけど、僕がこう言っても、市川の心に響かないことは分かってるよ。自己肯定感の低い人間が、その認識を改めようとするのは難しいって知ってるからね。でも、その自己肯定感の低さが、いつか山田を傷つけてしまう可能性があるってことも、市川には知っておいてほしいんだ。悲しませたくないって想いが、相手を傷つけてしまうこともあるんだよ。もちろん、言うほどそうなってしまう心配はしてないけどさ。

 

 

 市川はさ、山田との今の関係性がいつまで続くのかなって、ちょっとセンチメンタルになってたことがあったよね。……あったっけ? ごめん、もう記憶が定かじゃなくて。でも、いずれは来る話だから言うとね、それはそうだと思うよ。まだ中学生だしね。進路にしたって、普通に進学するにしても高校・大学で二回は節目が来るし、何と言っても山田は芸能界のことがある。そもそも中学卒業までに二人の仲に進展があろうがなかろうが、卒業とともに疎遠になるなんて結末はありふれたものだよ。

 もちろん、個人的には未来永劫二人が仲睦まじくやってくれたらいいなと思うよ。当たり前じゃないか。でもさ、何て言うかな。結末がどうなろうと、「他者と心を通わした」っていう経験が、市川にとって大きな財産になることは間違いないと思うんだ。市川はさ、言っちゃあ何だけど、そういうことができる普通の人間なんだよ。他者の気持ちが分かる、他者と心を通わせられるって意味でね。だからさ、そんな市川には、一度山田の気持ちと真正面から向き合ってほしいなって、僕は思うんだよ。怖いかもしれないけれど、でもきっとそんな感情さえも、市川にとってはかけがえのないものになるはずだって思うからさ。

 

 

 

 というわけで、マンガクロスで連載中・桜井のりお先生の『僕の心のヤバイやつ』第3巻は、特装版とともに2020年6月8日発売です。おめでとうございます。ありがとうございます。


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