死に物狂い

他人から影響を受けやすい人間のフィクション日記

『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』をクリアした

ファミコン探偵倶楽部 笑み男』をクリアした。以下はネタバレを含む感想である。

 

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 ファミコン探偵倶楽部シリーズについては、Switchで発売されている、リメイク版の『消えた後継者』のみプレイ済みである。同じくリメイク作の『うしろに立つ少女』までプレイする気にはならなかったのだが、プレイ時の印象としては悪くなく、話題となったホラー風味のティザーも相まって、今般プレイに至ったもの。推理ゲーまたはノベルゲーをしたかったという気持ちにも合致した。

 物語は、笑顔の書かれた紙袋を被された死体の発見から始まる。どうやらその死体の様子が、18年前に起きた連続殺人事件と同じらしく、関連性が疑われる。そこに加えて、「笑み男」と呼ばれる都市伝説も存在すると分かり、過去と現在、そして都市伝説、この3つの関係性はどうであるかが謎として展開されていく。

 しかしながら、この都市伝説の要素は弱く、話の展開としては、必ずしもなければならないものではなかった。一方で、事前の宣伝活動から得られる印象は、どちらかというとこの面をフィーチャーしている感じになっていると思われ、その結果として本作に対する期待と実態に齟齬が生じているように思われた。(言い換えると、私が期待していた作りとは異なる、というだけの話である。)

 本作では、今起きている事件が、例えば都市伝説上の笑み男が起こしている事件なのか、それとも現実の人間が起こしている事件なのか、といった謎はない。どちらかというと、都市伝説となっている以上、現実にそのような行為をした人間がいるのだろうとの発想で、検討が進んでいく。

 結論としては、都市伝説としての「笑み男」の発端となる事件が、現実として過去に存在しており、またその事件が結果的に、現在に至るまで尾を引いているという構成が採られている。そこでは「都市伝説で言われている実態とは異なり本当は悲しく切ない事件だったのだ」との引き方がなされるのだが、つまるところ都市伝説云々がどう活きているのか、がよく分からなかった。

 

 以上のような事前の期待は抜きにして見ると、作品として楽しむことはできた。システム面やUIの面では不自由さを感じることはなく、(良くも悪くも)推理の上で詰まる部分もなく、登場人物の言動でストレスを感じることもない(今やほとんどないと思うが、気づいたことをその場で言わない、なんてことはない)。と言いつつ、福山先生にはもう少しシャキッとしてくれと思わなくもないが、許容範囲である。あゆみちゃんは強い芯を持っていて素敵(衣装持ちなのもよいですね)。

 

 そのうえで、ストーリーとしては、それほど収まりがよくないとも思う。まず久瀬刑事は、自殺を他殺に見せかける、事件現場の改ざんという、なかなかにひどいことをやっている。しかも、自殺者の遺書を隠した。親御さんや友人、そして自身の属する警察といった事件関係者全てに対して影響のある行為である。しかもこの行為の動機は、笑み男が話題となれば18年前に失踪した兄への道筋になるかもしれないといったもので、ほんまに? と思う。行為の大きさと対比して、理由の根拠に確証がない。しかし、最終的には、懲戒があったのか自主的な退職かまでは分からないものの、ともあれ警察を辞して、慕ってくれる元部下と兄とで家族を築いており、幸せになってよかったねではあるのだが、本当にそのように受け入れてよいのか戸惑う。その兄も被害者ではあるが、人一人を殺してしまっており、正当防衛として処理されているのか。どう理解すればよいのか難しい。

 また、笑み男こと都筑実の半生が明かされる最終パートでは、空木探偵から、都筑の人生は同情に値するが、かといって殺人が正当化されるわけではない旨の指摘がなされる。しかし、それは久瀬刑事も同じなのではないか。行方不明の兄を探すためとはいえ、さらに自分が行方不明の原因となったことを悔いた結果であるとはいえ、その行為は正当化されるものではない。この点、たしかに久瀬刑事は、到底許されないことをした、その罪は償うと述べているが、他者からの非難が描写されない点で、都筑との比較ではアンフェアに思われた。

 空木探偵について言えば、幼少期の久瀬刑事は「すべて見透かされているようだった」と感じているわけで、実際のところ空木探偵の能力をもってすれば、少女久瀬の嘘を見抜いて、少なくとも誠が誘拐されたところまでは行きつけるのではないかという気もする。あのときもう少し突っ込んでいれば(突っ込んでいたのかもしれないがこれも分からない)、事件は18年前に終わっていたのではないか。

 次に、都筑実の取り扱いである。上記の最終パートでは、ほぼ全編がアニメーションで展開される。豪華である。そこで明かされるのは、都筑実自身も被害者であったとの事実である。もとを辿れば父親の虐待が原因であり、そこから妹を事故で失って壊れてしまった。空木探偵は、主人公に対し、このような都筑の人生を知ってほしいと言う。問題はその理由である。これがよく分からなかった。ゲーム内の(=警察にも協力する探偵という)立場で見れば、犯人として追いかけていた人物にも、一概に一方的には責め立てられない理由がある(こともある)、そのようなことを伝えたかったのか。または、メタ的に、主人公=プレイヤーに対して、謎を解き明かすことの是非を問うているのか(でもそんな話でもないね)。

 おそらく、私が気になったのは、明らかとなった半生自体ではなく、それが主人公と空木探偵の1対1の場でやり取りされている点にあるような気もしている。都筑は誰かに何かを語ることなく、もう死んでしまっているのである。親代わりとなった轟夫妻、そして久瀬刑事にも、この話は伝えられたのか。どうしてこの話を、空木探偵と二人だけで消化しないといけないのか。描写がないだけかもしれないが、描写がないから分からないのである。都筑にも事情があったんだと言う一方で、本編での都筑の取り扱いは決して良いものと言えない。3人以上の殺人と実質的な誘拐と監禁を犯している凶悪犯ではあるから仕方はないのだが、結局都筑をどうしたかったのかと感じた。これらの演出を通じて、そのようなどうしようもなさを表現したかった、ということなのであれば、それは成功していると言える。