死に物狂い

他人から影響を受けやすい人間のフィクション日記

なんか疲れたときには『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』を読むといい

 

 私は様々な創作物に支えられて今を生き長らえているのですが、『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』っていう漫画があるんですよ。「あるんですよ」と言うほど、もはや知名度が低いわけでもない気がしますが、モーニングで連載されていて、つい先日には最新刊の12巻が発売されました。私が本作を知ったのは作者のインタビュー記事からで、以来単行本派として楽しく読んでいます。

 

 本作は新任女性警察官である川合を主人公に、彼女を取り巻く職場環境と人間模様を描き、作者の泰三子さんご自身が元・警察官である経験を最大限に活用した、笑いと人情に溢れるいい漫画です。とはいえ、昼夜休日を問わず招集があれば出動し、身内からはしごかれ、市民には嫌われ、心身ともに疲弊する警察官の姿が描かれる本作を読んで(良くも悪くも)警察官になりたいとは思わないわけですが、むしろそれが作品の魅力になっている気もします。

 

 

 主語が大きいかもしれませんが、結局のところ人間は、自分の育った・置かれた環境以外について想像でしか語ることができない、と思うことがあります。特に「仕事」はその傾向が顕著である事項の一つではないでしょうか。自分が属する会社や業界のことは何となく分かるけれども、その知識や理論が他の業界でも同じである保証はありません。しかし、想像でああだこうだと言ってしまうのもまた人の常であり、言われる方は面倒なので(あるいは言われ慣れすぎて)反論しない、みたいな光景も個人的にはよく見ます。

 

 世の中に数ある職業のなかでも、えてして公の方々は簡単に敵視をされるものでしょう。ただ、悪く言われる組織も、それを構成する個人個人を見ていけば、いたって普通の人間であることもまた事実でしょう(例外を否定するものではありませんが)。ともあれ本作は、何かにつけて嫌われがちな警察官もまた普通の人間であるという至極当たり前のことを教えてくれます。

 

 といいつつ、舞台となる町山警察署の人々は一癖も二癖もある人ばかり。「まあどこにでもアクの強い人はいるよね」ということではありますが、そのアクの強さが千差万別。ここで働くのは大変そうだなあと思う反面、時にはお互いの欠点を補いながら事件・事案の解決にあたる師弟感・チーム感・一体感は、読んでいて羨ましくも思います。いや、それでも警察官にはなりたくないけれども(再)

 

 そんな多様な面々ですが、やはり根本には共通する何かを持っているように映ります。それらを、「警察官」という仕事に対する想いや情熱と評してしまうのはあまりに安易かもしれません。というのも、例えば刑事ドラマに憧れてこの世界に来たキャラクタがいる一方、主人公である川合は、受かった公務員試験が警察だけだった(ので警官になった)という経緯であり、またそのほかの登場人物においても、従事している仕事について揶揄することが多く、反対にそのやりがいを(直接的に)語る場面は少ないからです。

 

 では警察官自身もまた警察官の仕事が嫌いなのかといえば、そういうことでもないようです。基本的には激務で、市民からは罵詈雑言を浴びせられ、万が一には死ぬかもしれない。一見いいとこなしにも見えるけれども、それでもなお、どこか警察官という仕事を嫌いになれない人々の姿は、創作物であることを差し引いても、私の目にはとても美しく見えます(登場人物はほぼおっさんだけど)。簡単に言えば照れ隠しと言うか、「別に褒められることをやっているわけではない」みたいなスタンスなわけですが、目の前の仕事、ひいてはその先に居る人間に対する想いは隠しきれていません、

 

 また、今「人間」と申しましたとおり、読んでいて思いましたのは、警察官の仕事はその対象がとことん「現実の人間」であるということでした。一度事案が生じれば、そこには加害者と被害者がいる。そして彼ら/彼女らもまた警察官と同じく人間であるわけです。日常業務の一つ一つが、「誰か」のために行われている。警察官が日々対峙しているのは、徹底的に人対人において生じる何かであり、そのために時には自分自身の命を投げ出すこともあります。

 

 もちろん、これは警察官以外の仕事にも当てはまることですし、もとい究極的にはすべての仕事がそうであるとも思います*1。ただ、私は、やっぱり公の仕事というのは、一義的には人のために行われるものなのだなとの実感を得たわけでありまして、警察官になった小学校の同級生の今に思いを馳せたりしつつ、交番の前を通る際には、心のなかで「いつもおつかれさまです」と唱えるようになりました。

 

 

 また、これは結局いつもの話なんですが、「人から感謝される」みたいなことがあると、途端に元気が出るよねと。本作を読むと、ふと普段の仕事において自分が他者から謝意を受けた場面が浮かび、「まあ頑張るか」と思えるわけです。それだけで何でもできるわけではないけれども、まあやれることからやっていかなきゃねと、何はなくとも忘れがちな、日々にあったはずのポジティブな記憶を思い出させてくれる、そんな作品だと思います。

 

 

 さて、本作は最新第12巻において、数巻に亘り(あるいは第1話から)展開されてきた長期シリーズ*2が完結し、その意味では一つの区切りを迎えました。「一気読みするにはいいタイミングだ!!!」と力強く言える状況でしょう。決して警察官を賛美するような内容ではなく、純粋に人間ドラマ・お仕事漫画として面白いので、このご時世に笑いと涙を求める紳士淑女の皆様におかれましては、是非ともまずは無料の一話を読んでみてはいかがでしょうかと、ご提案申し上げる次第です。

comic-days.com

 

 

*1:命と引き換えにということまではないかもしれないが、「誰か」のためであるという点で

*2:日常ギャグ回を挟みつつの展開なので、その話だけを続けてきたわけではありません。