本当に素晴らしいものに出会ったときには、その体験を言葉で語ることは蛇足であって、ただただ心地よい余韻が残るなか、一言の「良かったなあ」という感想で全てが完結してしまう気がします。だから今から私がまた性懲りもなく、むやみやたらに長々と書き連ねようとしているのは、曲がりなりにもライブレポートという、一定程度はしっかりとした体裁の文章ではなく*1、面倒くさいオタクの独白であり、この世に存在しないほうがいいようにも思います。
それでもなお私がこのような文章を書き、更にそれをインターネットの海にばらまこうという気になっているのは、第一には「記録に残らない」この三日間を(完全に正確な形でないにしても)記憶にとどめておきたいからこそです。そして、私が皆さんのブログを拝見してそうさせてもらっているように、この記事が、(幸運にも)読んでいただいた方の記憶の補完になればいいな、との一抹の願いも持っています。
とはいえ、今回の記事はいつにもまして不正確であり、そのような一助にもなれない気がしてなりませんから、結局は自分のための文章ということになりましょう……と厄介そうなことを言うのはここらへんにしておきまして、1月12日から14日において、大阪国際交流センター大ホールで開催されたWake Up, Girls! FINAL TOUR - HOME -~ PART Ⅲ KADODE ~の大阪公演全5公演に参加してきました。
ガチャというよりはもはやびっくり箱。5公演という挑戦的な日程を最大限に活かしたパフォーマンスが繰り広げられ、またWUGちゃんたちが一段ステージを上がったのだと、骨の髄まで感じさせられる公演だったと思っています。以下、長文(約15,000字)、乱文、ライブ内容のネタバレ、時系列の入り乱れ、および何かをこじらせた産物が含まれておりますので、お読み頂ける場合には予めご了承いただけますと幸いです。
なお、あらためて読み返すと、こじらせてるなあと思う部分が多数ありましたので、各項目のこじらせ度を1~3つの星(多いほうがよりこじらせている)で表すことにしました。読み飛ばすか否かのご参考にいただければと思います。
- 大阪へ行く★
- 会場に着く★
- 入場★
- 前説★★
- 開演★
- 少女交響曲★
- 素顔でKISS ME★★
- スキノスキル★
- 僕らのフロンティア★
- プラチナ・サンライズ★
- ソロイベ曲コーナー★★★
- HIGAWARI PRINCESS★★
- 土曜日のフライト★★★
- 言葉の結晶★★★
- アンコール
- 彼女たちはどこまでステージを登り続けるのか★
- その他★
大阪へ行く★
自分が大阪出身であることもあり、盛岡や熊本のときのような感慨を特に覚えることもなく、会場最寄りの谷町九丁目駅(谷九)に到着。とはいえ、Part2の岸和田に比べれば、今回のほうが街としての馴染みは深く、「WUGちゃんが自分の地元に来ている」という感覚をより強く持つことができ、ニヤニヤしながら会場に向かいました。我ながら気持ちが悪いのですが、「WUGちゃんが谷町筋を歩いたかもしれない」とか、「空堀商店街を歩いたかもしれない」と考えるだけで笑いがこみ上げてきます。これが芸能人パワーか。
同じベクトルの話で言えば、谷九界隈をワグナーが歩いているのも非常に面白く、熊本城のような観光地にカラーパーカーを着た集団が歩いているのもよかったのですが、今回のように普通の街中をウィンドブレーカーを着た集団が歩いているというのも異世界感甚だしく、非日常は日常の隣にあるということを実感せずにはいられませんでした。
会場に着く★
会場内のスモークが漏れ出ていたのか、それとも待機ワグナーの熱気によるものだったのか、ロビーにはもやがかかっており、更には当日(一日目)同会場にて「こどもアートスタジオ作品展」なる催しが開かれていたがために、一般の親子連れと蛍光色に身を包んだ集団が入り乱れ、その姿を壁面に置かれた鮮やかなフラスタが彩る、といった妙な雰囲気の空間と化していました。なお、物販8000円購入特典は列待機中に枯れました(ウィンドブレーカーは買えた)。
入場★
「ステージが近い!!」というのは入場すると毎回恒例で思うことですが、当会場は2階席がなく、そもそもキャパシティがこれまでの会場に比し小さめであることから余計にそう感じることとなりました。とはいえ、座席に狭さを感じることはなく、また通路を挟んだ後方席にはきちんと一列ごとに段がついており、観賞上の不都合はありません。この点、周囲との身長差によっては、平面な前方列よりも、段付きの後方列の席の方がステージがよく見える場合がある、というのがライブ観賞の面白いところですね*2。
上述しましたが、熊本会場の夢ホールとは異なり、客席中央に一本の通路が横切っていることから、さてこの通路をどう使うのだろうかと楽しみに開演を待ちました。なんと言っても、初っ端の席が通路沿いだったものですから。
前説★★
〔クイzoo! Wake Up !〕*3
前説が変わっていた。よくよく考えれば熊本公演のそれは熊本でしか成立し得ない内容だったから当たり前である。アニメ以外でわぐずーとしての皆さんの声を聞いたの初めてかもしれないなあと思いながら、そして大いに笑いながら一日目は聴いていたのですが、前説が本領を発揮したのは二日目から。「前説もライブの一部分である」ことを思い知らされました。
本パートラストで「この後の公演で起きる出来事は?」という全員(司会のかや除く)での大喜利回答があるのですが、二日目昼公演において「みんなこういう答えだったかな~」と一日目を思い出しながら聴いていたら、耳に入ってきたのは聴き覚えのない回答。「昨日と違う!」と思ったときには口から驚きの声が漏れ出ていました。全くもって油断ならない。
結局ここでの答えが現実に起きることはなかった(はず)なのですが、輪廻転生→七転び八起き→焼肉定食とふざけ倒したよしのの答えは、ライブの様相を言い当てるものであったのではないかとぼんやり思っているところです。
〔大田さんの行く末〕
前が変わっているなら後も変わっているのが必然ということで、大田さんの口上も三日間その日その日に合わせた内容になっていました。これが仙台公演まで続くなら、下野さんは全10種類の内容を録ったということに…なんとも素晴らしいお仕事ぶりです。そして現場猫と化して指差し確認を行うワグナーに笑う。
実は私が公演中に最も声の力を感じるのが、(それでいいのかは分かりませんが)この大田さんによる前説です。やっぱり大田さんは私たちの近くに、客席にいるように思えてくるわけです。言い換えれば私たちは大田さんと一緒にWUGちゃんのツアーを回っている。大田さんは「WUGちゃんの全てを見届ける責任がある」と強く言い放ちますが、(もしこの前説がPart3中続くのであれば)私たちは大田さんの全てをも見届けることになります。
そして大田さんは我々ワグナーを象徴する存在でもあります。とすれば、私たちはKADODEにおいてWUGちゃんの進む姿を見届けるに併せ、大田さんを介して自分たちの行く末を見届けることにもなるのかな、などと考え始めると、大田さんはどのような心情で今を走っているのか、できることなら一度会って話がしたい気持ちがこみ上げてまいります。
開演★
冒頭申しあげた通り、本公演は全体を通して非常にランダム性に富むものでした。一方では「今日は何が来るんだろう」という期待感、もう一方ではループする世界に迷い込んだような感覚を覚え、やはりFANTASIAの世界の影響が今もなお及んでいるのではないかと思ってしまう時間でした。輪廻転生。日常に戻った今でも、何も終わった気がしないのです。明日起きたらまた大阪でライブがあるのではないか。あの世界に行けるのではないか。そのような強い錯覚を覚えています。
なお、以下は一日目の公演をベースに二日目・三日目の公演の感想を混ぜ込んだ内容になるため、色々に正確性を欠く点につき予めお詫び申し上げます。
僕フロ衣装の魅力★★★
一日目の幕が上がったとき、目の前にいたのは『僕らのフロンティア(以下、「僕フロ」という。)』衣装に身を包んだ7人の姿でした。ウワァー!!!!!!!と小さく叫ぶ私。前回「僕フロ衣装で僕フロを歌う姿が見たい」とは言いましたが、まさかこんなにも早く願いが叶うとは。今ならアガペーで崩れ落ちる人の気持ちがわかる。
様々に素晴らしいWUGちゃんの衣装の中でも、私は僕フロ衣装が大好きです。派手な装飾があるわけでもなく、凝った意匠が施されているわけでもない。目立つ色味でもなければ、複雑な構造をしているわけでもない。しかし、全体から醸し出される清涼感、清潔感そして可愛さとスポーティさ。着用者自身の魅力を最大限かつ自然なかたちで増幅させるその造形は、唯一無二な衣装だと思います*4。舞台用の衣装であることは間違いないのだけれど、衣装らしくない衣装と言いましょうか、どこか自然な出で立ちに見えるのです。テニスウェアみたいなもんか。(卓球だけど)
そしてこの衣装は、爽やかさあふれる僕フロと非常に相性が良い。そりゃその曲に合わせて作られたんだから当然の話で、どの曲・どの衣装でも言えることではありますが、僕フロは特にそうだと思うわけです。そんな映像でしか見たことがなかった光景が目の前に広がっている……*5。
少女交響曲★
逆に言えば僕フロ衣装は、僕フロ以外と組み合わせたとき一種のアンマッチさを生み出すような気もします。もちろんそれがいけないということではなく、シンプルな僕フロ衣装とメロディアスな少女交響曲との組み合わせはとにかく新鮮であり、灼熱の卓球娘のイメージに引っ張られたのか、運動部に所属している高校生がなぜかえげつないレベルのダンスと歌を披露しているかのような錯覚を覚え、一人面白く感じていました。
素顔でKISS ME★★
聞けば聞くほどにCDとの違いが浮き彫りになっていく曲だなあと思います。率直に言えば、CDではもはや満足ができない体になっています。聴いていると、ライブのように、曲中の低音を全身で受け止めたくなってくる。言わば禁断症状に近いもの。
ただ、それは単に音響設備の違いによるものであって、本質的ではありません。CDとライブを比べたときの一番大きな違いは、7人の歌い方にあると感じています。
CDの7人からは、可愛さやあどけなさが感じられます。激しく格好いい曲調であるにもかかわらず、聞こえてくる声はどこか朗らかなのです。あくまでそれを歌っているのは当時の劇中の7人であると捉えれば当然かもしれません。ただ、今となっては、シナリオ上本曲がヒットしなかった扱いになっている理由も少し分かるような気がするのです。これはこれでいいんだけれど……という感覚。
一方ライブにおける本曲には、美しさはあれど可愛さは少しだけ。しかし、これこそが『素顔でKISS ME』なのではなかろうか、と思ってしまうわけです。「みんな年齢を重ねて大人になったから(曲の世界観とマッチするようになったんだ)」などと言い出すと元も子もありませんが、ご他聞に漏れず、今ライブで目にしているのが、これまでで最高の『素顔でKISS ME』なのではないかと感じています。
スキノスキル★
スキガスギルのとこで胸に手を当てながら山下さんがクシャッとした笑顔を見せるの本当に反則的。
僕らのフロンティア★
僕フロ衣装で僕フロ! 僕フロ衣装で僕フロ!! 僕フロ衣装で僕フロ!!!
PVで見たあの光景が目の前に。映える映える全てが映える。これが本物*6の僕フロなんだ。皆さんの一挙手一投足がたおやか。円陣を組む姿は感動的で、空を見上げる姿はひたすらにまぶしい。この姿を見られただけでも、大阪公演に来る価値があったと、私は思っています。
ところで、青山さんは「ペンライトが青から黄色に変わるのいいよね。実質もやごぼだし。」と仰っていましたが、辺りが青と黄色に包まれる素晴らしい楽曲があるんですよね……『プラチナ・サンライズ』っていうんですけど。
プラチナ・サンライズ★
よろしくお願いいたします。
ソロイベ曲コーナー★★★
私が峻別しているだけではありますが、ソロイベ曲をWUGのライブで歌うというのは、それだけで特別な意味を持つような気がしてなりません。というのは、これらの曲は、あくまでも吉岡茉祐さんや青山吉能さんのものであり、声優ユニットWake Up, Girls!や、島田真夢(CV:吉岡茉祐)のものではないからです。本人名義の曲を歌うと、人間としての皆さんが前に前に押し出てくるように思うのです。そのような曲をWUGの舞台で歌うということは、その行為だけでもって7人をWUGから別離させる意味合いを持つと思っています。
本ツアーにおいて、これまでにもソロイベ曲が歌われた公演はありました。遡ればPart2の岸和田公演、そして前回の熊本公演。いずれにおいても、人間"吉岡茉祐"や"青山吉能"をひしひしと感じさせられました。本公演では、そのような楽曲群をメインの一つに据えることで、Wake Up, Girls!からそれぞれ一個人となりゆく7人の門出を力強く彩っているように感じられました。決意の現れとまで言えるかもしれません。
また、ソロイベ曲はWUGちゃんたちの「歌唱」に焦点を当てたものでもあると思っています。now is the timeを除けば、「決まった振り付けがある」という意味でのダンスらしいダンスがない*7。換言すればダンスには頼れない。「純粋な歌による表現力はいかほどか」の証明を求められる曲たちだと思うのです。
ややこしい話はさて置くとして、本公演はファンミと異なり、照明・スクリーン・二段ステージと様々に曲を演出できる環境が整っています。その結果、総じてファンミで聴いたときとはまた異なる、というか全然違う内容になっており、WUGちゃんはここでも最高を更新していきました。
○高木美佑さん―now is the time/HELP ME! みゅーちゃん!★★★
オレンジと白の照明が飛び交う中、I'veサウンドとともに現れた高木さんは格好いいの一言。『now is the time』の爆発力はGloriAに負けず劣らずで、ビタミンカラーも相まって場の高揚感は果てしないものがあります。ターンする姿は神々しく、いつもの笑顔はただただ眩しい。可憐さと格好良さを絶妙なバランスで表現されていました。この曲でここまで盛り上がるとは正直思っていなかった。
一方で『HELP ME! みゅーちゃん!(以下、「へるみゅー」という。)』は可愛さに全振り。心配だった早口の口上部分も難なく言い終え、我々がひたすらにデシベルパワーを送る存在と化していました。
ところで、へるみゅーが桃井はるこさんの作曲であるということも大きいのでしょうが、私はこの曲を初めて聞いたときに『ワンダーモモーイ』らしさを感じました。特にラストのしんみりする部分では、ワンダーモモーイを聴いたときに何故か覚える感動と同様の感情が惹起されます。
そのせいもあってか、そして場がオレンジに包まれていたことも作用したのか、私にはへるみゅーを歌う高木さんが、その昔DVDで見た、アニサマ2007でワンダーモモーイを歌う桃井さんの姿と重なって見えました。
どういう経緯でアニサマDVDを見ることになったのかは覚えていないのですが、瀬戸の花嫁で桃井さんを知った私には、画面の中を力強く駆け巡る桃井さんの姿がとても印象的で、特にワンダーモモーイのラスト、会場中央のステージで、スポットライトと客席のUOに照らされる桃井さんのバックショットは、非常に幻想的な風景として私の記憶に残っています。
このときの桃井さんは歌詞の一部を変えてワンダーモモーイを歌われました。
この世界に防げない つらいこともあるけど
同じ時を 生きていくの 今日もみんなと一緒に
この赤字の部分、本来は「あなたとふたり」なんですね。そして、へるみゅーにも「あなた」という言葉は出てくる。もし、最後で「みんなのそばにいます」なんて言われた日には号泣するだろうなと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。
しかし終わってから考えてみると、高木さんにとっての「あなた」とは「みんな」なのであり、あえて言い換える必要がないのだと一人で勝手に合点がいきました。我ながら何を言っているのでしょう。
また、へるみゅーが披露されたのは二日目のこと。一日目のMCにて、「みんなのデシベルパワーが必要だから、よかったら練習してきてね」との言葉を本人の口から聞けたことに喜びを感じました。(みんなあんまりそういう要望を言わないから)
○山下七海さん―ももいろDiary/七つの海のコンサート★★
ありとあらゆるものが紫色に包まれているという状況が、こんなにも艶やかであるとは知りませんでした。私は今回のツアーを通して、幾度となく認識する照明というか光の持つ力やその表情の豊かさに驚かされっぱなしなのですが、山下さんの作る紫のステージは本当にななみんワールドなんです。
その場にある全てのものが、山下さんのために存在しているように思われてくる。恐らくそれは、『ももいろDiary』の力でもあると感じています。イントロが始まった瞬間に、そこがななみんワールドになる。別の世界になる。山下さんについては、他メンバーに比してなおのこと感覚でしか喋れなくなってしまうのですが、「周囲のもの全てを自分の味方にしてしまう強い力を持っている」ぐらいの表現が妥当かと思っています。だからこそ、本公演でも大活躍した、ななみホッチキスなんて荒業を使うことができるのでしょう。*8
『七つの海のコンサート』は、背景に海のアニメーションが映し出されるという贅沢な仕様。この曲で再びコールアンドレスポンスができたことを喜ぶとともに、ファンミの際は練習の意味合いが強かったのか、我々がレスポンスを返すたびに一小節を使ってお褒めの言葉をかけていてくれたのですが、当時私は不遜にも「褒めてくれなくていいからそこの歌詞も歌ってくれ!」と思っていたところ、本公演では概ね歌ってもらうことができ、非常に満足です。
○田中美海さんー狐草子/Trouble!? Travel★
どうして田中さんはこんなにも器用なのでしょうか。器用富裕とでも言えばいいのでしょうか。演技もダンスもラジオも歌も高い水準でこなされる。そんな田中さんにとって狐草子は、キャラ声ではない、田中美海としてどこまで歌えるのかを試されている曲だと思っています。元々田中さんの低めのトーンが大好きな私にとって、可愛さに振れない歌い方のこの曲は非常にご褒美でありましたが、ところどころで聞こえてくる気迫のこもった声に何度も心揺さぶられました。
だからこそ、優しくて前向きなTrouble!? Travelとの落差に驚くわけです。同じ人が歌っているんですよこの二曲を。一体田中さんは何人いるのか。よくわからない合唱パートを再び皆で歌うことができて私はとても嬉しく思っています。アーヤーエーエーヤー
○吉岡茉祐さん―てがみ/GloriA/sweet sweet place★
本公演の企画コーナーであるソロイベ楽曲ガチャは、明確な説明もなく、てがみでゆったりと始まりました。イントロを聞いて会場は企画の趣旨を察したわけですが、そこに瞬間的に全員のテンションがぶち上がるであろうGloriAではなく、この曲を持ってきたところがニクいと言いますか、湧き上がる興奮に対して「まだまだこれからが本番やで」と優しく煽られているようでした。
それはそうと、GloriAもまた照明の恩恵を多大に受けた一曲であると思っています。暗い会場が真っ赤に染まっている光景は、まさに血が滾るという感じ。そんな中でこちらを煽る吉岡さん。応えないわけにはまいりません。ワグナーの声とクラップが大きく会場を揺らし、ボルテージが最高潮に達したときに、響き渡る吉岡さんの歌声。音がひび割れるほどの声量。ファンミのときにも思いましたが、それは歌唱の技術論的にはよろしくないのかもしれないけれど、素人的には声量からそのままに吉岡さんの想いの強さみたいなものを感じ取れたように思っています。熱い。
sweet sweet placeは企画コーナー自体のエンディングの立ち位置として置かれたんだろうなあという解釈。一つだけイレギュラーな存在だしね。しかし、こうも「おかえり」がハマってしまうと、大阪以外では歌えなくなるような気もする。
○永野愛理さん―桜色クレッシェンド/minority emotions★★
本公演ではソロイベ楽曲が歌われると判明した初日土曜日の昼公演後、ワグナーたちはTwitter上で、そして現実世界で激しく動き回っていました。「ピンクを確保しろ! ペンライトでもサイリウムでも何でもいい! とにかくピンクだ!」というのは脚色も入っていますが、結果的に近くのドンキホーテではピンクのサイリウムが売り切れ(たらしい)、なんばのでらなんなんはここぞとばかりにピンクの大閃光を宣伝し、さらには大量のピンクが有志により会場で配布がなされるという、オタクのダイナミズムを感じられる一幕でした。結果的に永野さんの出番が来るのは二日目からだったのですが、何にせよその行動原理は、ひとえに演者のためであり、永野さんのためであるわけです。「好き」はここまでに人を動かすんだなあと。それは一体何なんだろうなあと。
そんな前段がありましたから、永野さんが「みんなのおかげで素敵な景色を見ることができました」と言ってくれたことで、どこか私は救われたように思っています。一つ明確な形で、演者へ想いを返すことができたのではないか。それは決して達成感ではなく、安堵に近い感情ではあるのですが、この日の景色が、少しでも永野さんの記憶に刻み込まれたのであれば、私は嬉しいなと思うのです。
そして、高木さんと同じく、永野さんから「この景色を作るのに協力してほしい」とはっきりとした要望を聴けたことが非常に良かったなあと思う次第です。
○奥野香耶さんーWhy am I/あのね★
何を書いても的はずれな気がしてしまうがゆえに、ここはガチ勢にお任せしますというのが正直な気持ちではありますが、一つ思いましたのは奥野さんは歌うことも演技の一つであるとの意識が強いのかなあということでした。それは歌に限った話ではないかもしれません。踊るのも話すのも一緒。ステージに立つということは、とにもかくにも何かを演じるということ。突き詰めると、「そもそもWUGちゃんはWUGちゃんという存在を演じているだけ」との方向に発展していくだけですが、ともかく奥野さんはこの二曲を単に歌っていたわけではない、と書いたところで身を引こうと思います。。
○青山吉能さんーわたしの樹/解放区★★
「熊本公演と大阪公演、どちらの『わたしの樹』が好きですか?」と問われれば、私は「どちらも好きです」と答えますが、「どちらも」という風に違うものとして認識できる程に、それぞれの雰囲気に明確な差がありました。厳密には、青山さんの雰囲気と言ったほうが正しいでしょうか。青山さんには笑顔で歌う姿が似合います*9。重圧から解き放たれた青山さんが大阪の地で歌う『わたしの樹』は、とっても前向きに聴こえます。歌う人間の感情が、こうまでも反映されるものなのか。途中からはマーチのようにさえ聴こえました。「私は決めた」の前後で、ステージの照明が下から上へなめるように客席を照らすのですが、それは青山さんの行く道を照らしているようにも感じられ、そしてまっすぐと前を見据えながらたくましく歌う青山さんの姿を見て、私は大変心強く思いました。
『解放区』のイントロが流れると各所から歓声が上がるのは、推しが誰であるかにかかわらず、解放区という曲そのものに強い思い入れを持っている方が多いからであるように思います。元々青山さん自身の応援歌として作られたこの曲が、結果的に多くの方に響いているのは、青山さんが私たち観客と同じ目線を持ち続けてくれていることの現れかもしれません。どこまでいっても等身大であり、人間臭い感情を隠さない青山さんには、できるならばそのままで大きくなっていてほしいなという、何目線かよくわからない矛盾した願いを抱いています。はやくアーティストデビューしてください。
ソロイベ曲の今後★★
ソロイベ曲は本人名義の作品であるのだから、解散後もそれなりに聴く機会はあるのではと思っていたのですが、MCで「WUGの舞台ぐらいじゃないと歌う機会がないからね…」という田中さんの言葉を聞いた時、私はどこか勘違いをしていたのかもしれないと思いました。
そもそも人前で歌う機会を得ることが必要で、それがアニソンではない曲も歌えるような趣旨であることが求められて……となかなかハードルが高そう。これならWUGの曲の方が聴けるチャンスがありそうな気がしてきます。
では定期的にこれらの曲を聴くにはどうすればよいのか。そう、全員アーティストデビューの道ですね。と、言葉にするだけでも茨の道であることが察せられますが、次なる高みとしていかがでしょうか。ディナーショー巡りをする準備はできていますよ。
HIGAWARI PRINCESS★★
最初から「日替わり」って言ってるやん。と後から考えればそりゃそうだなと思うわけですが、一日目のプリンセスが田中さんであった驚き(吉岡さんやと思いますやんか)も束の間、二日目のプリンセス紹介動画の背景が赤色だったときはもう心底驚き、「じゃあ三日目も変えてくんの? 一人だけ一公演のプリンセスになるやん??」と疑っていたら高木さんがやってきました。まあ日替わり言うてるしな(二回目)。私は傘を腕から提げている姿が好きです。おしとやか。
熊本公演で私は自分が「人と人とが信頼しあっている姿」が好きなのかなと思ったわけですが、そう意識した上で見る各メンバーからプリンセスに送られるメッセージは、そういった姿がそのまま文字として表現されているようなものでありまして、座りながら私は彼女たちの「関係性」の尊さを噛みしめることとなりました。
特に吉岡さんに対するメッセージでは、「いつでも頼ってね」といった文言が続き、それは言うまでもなく普段どれだけ一人で物事を抱え込んでいるかの裏返しであり、やっぱり吉岡さんってそうなんだなあと思う一方、そんな吉岡さんをして「悔しい」と言わしめる田中さんはやはり本物なのであろうと感じさせられましたし、また誰からもその明朗さを賞される高木さんがユニット内で果たす役割の大きさというのも、うかがい知ることができました。
土曜日のフライト★★★
新曲第二弾ということで土曜日にお披露目された『土曜日のフライト』は、『言葉の結晶』と打って変わってスローな曲調で、韻を踏んだサビの歌詞が気持ちよく、終始心地よく聴くことのできる楽曲でした。それこそジェットストリームのような。サビ前がとても好き(細かい歌割りは大好物)。山下さんの「なのか~」は癖になる。
しかし、「しっかり歌詞を聞き取ろう」と思って耳を傾けると、その内容に背筋が寒くなりました。と言いつつ、「チケットとプライド」を「魂のプライド」と認識する*10程度には残念な耳をしているので、はたしてどこまで正確に聞き取れていたかはわからないですし、歌詞の全貌が正式に明らかになっていない中でいろいろ言うのも全く生産的ではないのですが、他の方も言及している、恐らくあっているであろうこの部分をもとに話をしたいと思います。
忘れないで でも上手に忘れて
視聴版でお聞きになられた方は分かるように、また田中秀和さんが覚悟の曲と表現されたように、本曲の歌詞からは旅立ちとか決別といったイメージを受けます。WUGちゃんたちは、次のフライトのため緊張した面持ちで空港に待機しているところ、セキュリティ(WUGないしはワグナー)の顔を見ることで少し気が楽になり、しっかりと心の準備をした上で次のステージに向けて飛び立っていく(セキュリティからも離れることになる)…。と、視聴版で確認できる一番の歌詞だけでもそんな想像ができるのですが、本曲ラスト前で青山さんによって紡がれた上記の言葉は、会場で耳を澄ましていた私の脳に深く突き刺さりました。
前後の歌詞には自信がないため文脈は無視しますけれども、たとえ聞き取れていたとしても、この部分だけが頭の中で反芻することになったと思っています。一体何を忘れないでほしいのだろう。そして、何を忘れてほしいのだろう。
そう考えて脳裏に浮かび上がった結論は、結局WUGのことを言っているのではないかというものでした。WUGというユニットがあったこと。この7人がWUGであったことを忘れないで。でも、これからはそれに引きずられないように、囚われないように、上手に忘れて。
全部が全部確証もなしに勝手に自分で考えているだけという、客観的にはまことに滑稽な話ではあるのですが、箱推しの非リア充DDであり「7人がWUGでなくなったとき、私は7人をどういう目で見ることができるだろうか」と非常に悪質なファンの思考をしてしまうことを悩む私にとっては、自分自身の心の内を見透かされているようでギョッとし、また「いつかまた良い頃合いに帰ってきてほしい」などと願うこと自体が、彼女たちにとっては喜ばしくないことなのではないかと考えてしまうところで、考えれば考えるほどに分からなくなる感覚に襲われました。ともあれ、アルバムが発売されたらしっかりと聞き込みたいと思います。
言葉の結晶★★★
緩和させなくて良い緊張もあるということを教えてくれる楽曲だと思っています。曲の始まりから緊張するのはBtBも同じなのですが、BtBがサビで一度緩和する一方、言葉の結晶は最初から最後まで張り詰めた空気が続きます。
ピンと糸が張られた状態のなか、山下さんの「なる」とともに全身に襲いかかってくる衝撃的な低音。恐らくこれはライブでしか体感できない。少なくとも私の安物音響環境ではどうあがいても無理です。
そして硬い空気感に訪れる静寂。高木さんの「まゆしぃの手に合わせてペンライトの光を消そう」との提案によって、一時的に光さえも失うことになったその世界は、針の落ちる音さえ聞こえてきそうで、世界に引きずられて自分自身を見失いそうになります。
そんな中最後に天井に映し出される星は、客席を横断し、ステージへと帰っていきます。自分を見失った私を導いてくれるように。どちらを向けばいいのかを教えてくれるかのように。
そんな星の光を私は目で追っていたのですが、N列L6番という私の席は丁度星の導線上にある席で、流れた星は私の体を貫いていきました。眼の前が黄色の光で見えなくなったその瞬間、私は楽曲・ステージ・客席と一体化した感覚を覚えました。私は星になりました。(ポエム)
さて、初めて聞いたときから無機質な曲だとは思っていましたが、収録のときには「感情を消せ」とのディレクションがあったとのことで、また「声をも楽器のように使っている」との表現通り、そこは徹底的に意識して、このどこか機械的な世界観を作られているのでしょう。
そう考えると、ステージ上で繰り広げられる激しいダンスも、その世界観を意識したものであるように思われてきます。私達はときに称賛の意味を込めて「人間のする(できる)動きじゃない」という表現をすることがありますが、それは言い換えれば「(そのようなダンスをするようにプログラミングされた)機械のような動きだ」と言っているに等しいと思うわけです。
本曲のダンスはもうバッキバキのヌルヌルに体が動くわけですが、そのような動きであればあるほどに、踊っている本人たちから感じられる人間性は薄くなっているのかもしれません。
一方で、歌に関してはCD版と比して感情が込められているように感じます。少なくとも、ここまで無機質ではない。人間が歌っているのだと認識できる。そうすると、舞台上のWUGちゃんたちが見せる姿は、どちらとして捉えるべきなのだろうかと考えてしまいます。つまり、「無機質なアンドロイドが感情を持ち始めた」のか、「人間が感情を押し殺している」のか。いわゆるアイドルというものを、ファンの求める姿を機械的に映し出す偶像であると捉えるならば、いみじくも後者を象徴的に表しているようにも思え、しかしそれは逆(人間が無機質に演じるなかで、少しずつ本人の人間性が出てきている)も然りで、ぐるぐると巡った結果私は考えるのをやめました。
アンコール
○Polaris★
盛岡公演の帰り道だったでしょうか、後ろを歩くワグナーさんがこんなことを話されていました。曰く、「まゆしぃの落ちサビでペンライトを赤に変えたあと、また白に戻すのが難しい」と。それに対してお連れのワグナーさんが、非常に穏やかなトーンで「そこは別に白じゃなくても各々の解釈で色を変えればいいんじゃない」と答えられていました。
私はその時、「なんと優しい答えだろうか」と感服したのですが、そのように考えていたワグナーさんは多かったのか、今では多種多様な色が見られるようになりました。皆さんご自分の推し色にしているのでしょうか。そういう変化一つ一つにツアー感を覚える今日この頃でございます。なお私はWUGグリーンにしています。
○地下鉄ラビリンス★★
出会ったときから私の心を掴んで話さないこの曲の魅力は、このPart3を通じて限界点を突破し、依然として大きくなり続けているように感じます。細かな歌割りで始まり、キャッチーなメロディーとともに可愛いくて仕方がないダンス*11が展開され、若干の寂しさを感じさせるサビに、山下さんの「ごあへー↑」。近くに来てくれるWUGちゃんとのラップバトルが尋常ではない盛り上がりを見せた後、楽しい時間が終わってしまう悲しさを覚えつつの合唱。最後に悠然と佇む7人の背中の上で、力強く表示される「Wake Up, Girls!」の文字。1から10まで文句のつけようがありません。
本公演においては、ラップパートにおいてWUGちゃんたちが通路上のお立ち台に来てくれて、またその後縦横無尽に会場中を駆け巡ってくれます。私は一日目にM列、二日目にはN列と、要は通路に面する席にいたのですが、とてつもなく近い距離で吉岡さん・山下さん・永野さん・奥野さんを拝見することができました。失礼かもしれませんが、とにかく皆さん小柄で華奢。この体躯のどこにあれだけのエネルギーがあるのだろうかと不思議に思わざるを得ませんでした。
また、やはりステージから降りているとの事実が大きいのか、眼の前に居るのは「人間」であると明確に認識することができ、ステージが持つ魔力の大きさを、より一層に感じられました。
と、全公演を通して最高に最高を重ねていくかの如き時間だったのですが、特に三日目のラップは、WUGちゃん全員とも弾け飛んでおりまして、またもや音が割れるほどの声量で、勢い余って言葉を噛んでしまう奥野さんの姿もボルテージの向上に一役買い、曲が終わったときの満足感たるや。やっぱり地下鉄ラビリンスなんだよなあ。そして訪れる極上スマイル。
○極上スマイル★
電子ドラッグである。
彼女たちはどこまでステージを登り続けるのか★
最初から最後まで「楽しさ」を追求した公演だったと思います。「常に最高を更新する」との評価は身内贔屓かもしれませんが、一日目よりも二日目、二日目よりも三日目の方がより楽しかったと思う自分がいるのは事実であり、私は最高を更新する姿を目の当たりにしたと自信を持って言うことができます。
そして、本公演はWUGちゃんの方から様々な希望や要望を聴くことのできた公演でもありました。「ワグナーもアクターである」とは青山さんの言葉ですが、「こうしてほしい」との言葉を遠慮なくぶつけてもらえることにより、たとえその瞬間だけであっても、演者と客席が対等な関係に立てたのだと思っています。
土曜日のフライトを迎えるまでに、彼女たちはどこまで高みに登るのでしょうか。そう考えると、私は残された公演が寂しくも待ち遠しくてなりません。
さあ次は長野公演。高木さんはどのような景色を作られるのでしょう。と、その前にまずは滋養強壮。年始から疲れが全く取れていないことに気づきました。ライブは休養ではないんですね。推し事ととはよく言ったものです。インフルエンザが流行する折、皆さまもどうかご自愛ください。長野でお会いできることを心から楽しみにしております。なお、BEST MEMORIALは実家に届く予定です(死)*12。
その他★
・奥野さんの振り切れ具合はWUGちゃん全体の緊張感のバロメータであるような気がする(比例関係)。「しんみりしちゃったから、可愛いまゆしぃをもう一回!」と打ち込んできたところとか、非常に楽しそうでよかった。
・そう言われてステージ階段上に吉岡さんが立つと、その立っている段だけきちんと電飾の色が変えられた。細かい心遣いである。
・客と演者の一線を超えるとか、ズコバコとか、青山さんはもう少し言葉を選んだほうが良いと思うが、私の心が汚いだけかもしれない。
・吉岡さんの出身地でもある北大阪の住民は、転勤族が多いこともあり、その大阪弁をエセ扱いされがちであるが、それも訛りの一つではないかと思う。
・何かトラブルが生じたときに、即座に「ななみホッチキス」を発動できる山下さんの反射神経は素晴らしいが、それに対して遅れず「ああ今日もいい天気だな~」と返すワグナーもすごいと思うし、何よりもそれで全て解決したことになるのが共同幻想を見てる感じで非常に怖い(褒め言葉)。
・音響トラブルが生じたことについて、「トラブルさえ楽しみに生きていきたい」歌詞をリファーする田中さんの姿勢が好き。
・ハウリングさえも既定の演出に思えてくるから不思議なものである。
・へるみゅー、曲途中までは散々耳が割れんばかりの大声で声援を送っていたのに、ラストでは黙って高木さんの姿を見守り、曲の終わりには拍手で称賛を表現するというのが良い。だから私はWUGちゃんとワグナーの作る世界が好きなのだ。
・へるみゅー。思った以上に「わしがそだてた」の声が周りから聞こえてきて大変面白かった。でも「いるわけないだろ」は言わないんですね。
・MCの際、ステージ上に7色のくいだおれ太郎が表示されていたのだが、「我こそはくいだおれ太郎だという人~」との雑な問いかけに、きちんと点滅することで応答を示させるスタッフさんほんとスタッフさん。
・「大丈夫、くいだおれ太郎に全然似てないから!」という永野さんのフォローは、くいだおれ太郎に対して失礼ではないか(クソレス)
・新曲、絶対高橋さんだと思った。
・一日目は同会場にて某社の昇格試験も実施されており、なんともまあ夢と現実の入り交じる世界だなと思った。
・初日昼公演の時点では「五公演もできるか不安だった」とのことであり、「(不安な)想いは伝わる」との助言をダンスの先生から受け、以降はポジティブにライブと向き合えたとのことだが、正直のところ私は7人からネガティブな雰囲気を受け取ることはなかった。むしろ熊本公演と比して明らかに肩の荷が降りたように感じたぐらいである。ただ、小さいミスが何度か見られたので、そういう部分に表れていたのかもしれない。