ライブとは生物(なまもの)であるとよく言われるが、生物(いきもの)でもあるように思う。特にツアーという形式では、一定期間に亘って同種の演目が繰り返されるため、演者と客席が洗練されていくのにあわせ、曲自体が果たす役割というのも移り変わっていくように思われる。
2018年7月から2019年2月(SSAも含めれば3月)に亘って開催された『Wake Up, Girls! FINAL TOUR - HOME -(以下、「ツアー」という。)』では、数え切れないほどの楽曲が、やはり数え切れないほどの回数演じられたわけであるが、中でも『ハートライン』は、ツアーを通して自身の立ち位置が変化していった、最も印象的な演目の一つであったから、今回その点を取りあげて備忘的な記録を書くことにした。内容としては、徳島公演の感想で言及したことの書き足しになる。なお、恐縮ながら、私はハートラインが生まれた頃のWUGを詳しく知らないため、いつも通り諸々話半分に読んでいただければ幸いである(6000字程度)。
そもそもの立ち位置
そもそもハートラインは、かのMay'nさんとのコラボユニットであるWake Up, May'n!(以下、「WUM」という。)用の曲として作られたものであり、生来的にはWake Up, Girls!用の曲ではない。さらには、ANiUTaに加入しなければ聴くことすらもできない*1。
また、ツアー以前において対外的に披露されたのは、『One In A Billion(以下、「ワンビリ」という)』のリリースイベント、そして4thライブ東京公演程度であり、WUGのライブにおいては、ワイルドカード的な立ち位置であったと思われる*2。
披露回数の少なさに応じて、各メンバーのブログにおける言及も少ない。もとい、今回のツアーまでは、上記2公演以外に関するもの以外への言及はない*3。その中で、青山吉能さんによる、ワンビリのリリイベに係る記事での一言を引用しよう。
May'nちゃんと歌うのは夢のように楽しくて!!
ほんと奇跡レベルって言えそうな感覚。。なんだよな。。
ワンビリの歌詞ほんとWake Up, May'n!。。ハートラインという新曲も披露できたし、
熱く熱く盛り上がれたかなって思います!
主には、ワンビリに対する青山さんの感情を表現した部分であるが、他の三曲についても、同じような感覚を持っていたのではないかと思われる。つまり、これらはあくまでもWUMのために作られたもの、という感覚だ。
ところが、青山さんは解散を発表した翌々週のブログにおいて、4thライブBDを紹介するにあたり、ハートラインについて次のように語っている。
特にここが好き。
『わからずに空回り もう離れてしまった糸も』
『時が経ち 新しい未来で』
『いつかまた出会えるはずだよ』
『もう一度 スタート』
こんな言葉わたしの脳みそじゃ出てこないよーーー😭すごい…
でもほんとその通りなんだよなーー😭
時期的には、まだツアーPart1も始まっていない頃であるから、ハートラインがどこまでツアーに組み込まれる予定であったのかは分からない。しかし、青山さんのこの言葉により、2018年6月末の時点において、ハートラインという曲そのものがWUGちゃん最後の半年間と重なりうること、そしてツアーを象徴する存在にさえなりうるものであることが、既に7人の中で意識され始めていたのではないかと思うのである。
コールの進化
ハートラインがツアーで初めて披露されたのは、Part2大阪公演のアンコールであった。セブンティーン・クライシスの興奮冷めやらぬなか、ハートラインの始まりに、会場のボルテージがさらに高まったのを覚えている。
「ハートラインのコールがどの時点でどこまで完成していたのか」という点につき、私には覚えがない。ただ、当時のTL上で「もう完成したのかよ」といった言葉が踊っていた記憶がある。もとより、披露の回数が少ないなかでは、完成も何もなかったのかもしれない。そう考えると、その場にいた誰かが瞬間的に「かやたーん」や「あいちゃーん」と言ったのかもしれないし、あるいはオタクの世界での決まり文句だったのかもしれない。ともあれ私が言えるのは、少なくとも4thBDにこのような声は入っていなかったということである*4。そうすると、ハートラインのコールはツアーを通じて(早々に)完成したと捉えても良いだろう。
最も印象的なコールは、言うまでもなく以下の部分であり、奇しくも青山さんの引用部分と重なる。
わからずに空回り もう離れてしまった糸も
時が経ち 新しい未来で
ワグナー諸氏には説明する必要がないと思われるが、青山さんと吉岡茉祐さんが順番に担当するこのパートにおいて、ワグナーもまた順番に「よっぴー」と「まゆしぃ」の名前を呼び続けるのである(以下、当該コールを指して安直に「ロングコール」という。)。
いつから声を発していたのか、私自身も明確には覚えていないが、恐らく大阪1日目の時点でこれらは既に完成していた。ただ、「何かが起こっている」と明確に舞台上にも認識されたのは、「よっぴー」コールに驚く吉岡さんの姿が見られた、2日目夜公演だったように思われる。そしてこの日以降、曲中で「名前を呼ぶ」ことができるようになったハートラインの果たす役割は、ますます大きくなっていく。
「名前を呼ぶ」ということ
一般的な傾向を知らないが、とかくWUGにおいては、(「WUGちゃん」呼びも含め)曲中にメンバーの名前を呼びがちである。なんたってアンコールが「Wake Up, Girls!」だ。どれだけ7人が好きなんだ、という話である。
それでもロングコールは特殊である。単発ではなく、延々に名前を呼び続けるのはこのコールしかないだろう。いや、延々に名前を「呼び続けることができる」としたほうが適切だろうか。そしてこのコールが行われるのは、上記の通り青山さんと吉岡さんのソロパートである。構成が非常に単純であるため、応用がききやすいのである。そうして生まれたのが徳島公演、そして仙台公演の一幕であった。
徳島公演夜の部では、二人のソロパートがサプライズで山下七海さんへと譲られた。唐突にステージセンターに連れて来られ、左右から「唄え」と言わんばかりにマイクを向けられた結果、戸惑いながらも唄う山下さんに対して、客席からは「ななみん」コールが鳴り響いたのだ。
ライブにおいて「名前を呼ぶ」という行為は、その相手を応援し、愛や感謝を伝えることにほかならない。このようなサプライズが行われたのは、「ハートラインにおいてロングコールが完成した」こと、それが舞台上に認識されたこと、そして「歌い手が変わればコールの内容も変わるだろう(変えてくれるだろう)」という、舞台上と客席の信頼関係があったことによるものであり、まさしく「このツアーがなければ生じ得なかった」産物であると言えよう。
極めつけが宮城公演である。1日目の夜公演で唄われたハートラインにおいて、遠慮する永野愛理さんを他のメンバーが無理やりセンターへ連れて行く。永野さんは頑なに唄おうとしないのだが、そんなことはお構いなしに、会場には「あいちゃん」コールが鳴り響く。それはもう、大きな大きな呼び声であった。
そして、2日目夜公演では、あの奥野香耶さんの口上があった。
ワグナーさんへ。私たちと出会ってくれてどうもありがとう! いつもどんなときも気持ちをいっしょにいてくれてありがとう! だから、いま考えてることもきっといっしょだよね。私たちはワグナーさんへの愛を込めて歌います! だからワグナーさんも私たちに愛を分けてーーーー!
引用元:ファミ通.com
間奏において、階段から降りながらこのように述べた後、いつものソロパートが7人のユニゾンで唄われた。コールに通説はあっても正解はない。しかし、このとき舞台上で想定していたのは恐らく「WUGちゃん」の名前が呼ばれることであったのだろうし、実際そのようになったのである。
すなわち、元々一時的かつ特例的なユニットである、WUMのための曲として作られたハートラインは、ロングコールの完成をきっかけとして、舞台上と客席を相互につなぎ、曲中において感謝の気持ちをぶつけ合えるような、言い換えれば、「一体感のなかで一つの作品を作り上げていく」という、WUGのライブを象徴する曲へと変化したのである。
パレードの号令
本来ハートラインの世界とは、僕らのフロンティアにも通じる爽やかな世界であり、この点について田中美海さんは、過去のブログで一言、以下のように評している。
ハートラインは8/23からアニュータで独占配信されます♪
青春ソング✨走り出したくなる盛り上がる曲です!
「青春ソング」という表現は適切で、それぐらいに清涼感があるし、歌詞についても、思春期における人間関係の機微を表現したもののように捉えられる。そう考えると、この曲は、一般的な高校生ぐらいの年代で生じる他者とのやりとりであるとか、舞台上の7人ないし8人の関係性を唄ったものとして捉えるのが、素直で分かりやすいように思われる。
しかし、WUGちゃんの解散が発表されたこと、そして『想い出のパレード』と『さようならのパレード』の二つのパレードにより、ハートラインの歌詞は重みを増すことになる。具体的には、解散を間近に控えたWUGちゃんとワグナーの関係性を唄ったように思えてくるのであり、そうであるからこそハートラインは、SSAでのFINAL LIVEにおける実質的な一曲目として演じられたのではないかと考えている。
歌詞の受け止め
優しいってなんだろう 難しいかもね
受け止めてくれること 嬉しくなること
よくWUGちゃんはワグナーを指して「優しい」という。観測範囲では実際にそう*5であるし、変に指導し始めるような人もいない(または少ない)。私たちは舞台上で7人がすること、やりたいということを笑顔で受け止めている。(演者からすれば、だからこその難しさもあるかもしれない。)
「誰かがいるから」 考えてるんだ
それぞれ描くハートは 違うものだから
そのように見せる相手がいるから、見てくれる人間がいるから、何をすればいいのかを色々と考える。7人いれば考えることもやりたいことも違う。その中で、何が最良かということを考えていく。
手を取り合って輪になって
伝えあったら宝物だよ
ここからスタート
ライブ会場ではステージと客席が対面していると解するのが通常だが、端まで広がる客席の頂点と7人とを結んでみると、実は会場自体が一つの円になっていると捉えることもできるように思われる*6。7人とワグナーがハートを伝え合うライブという場は、それ自体がお互いにとって宝物なのである。
結んで 解いて
途切れないように
meet you
はじめましてをいっぱいに広げよう
進んで 止まって
歩幅あわせて
with you
悩んで出した正解を
君と一緒につなごう
そうして始まったライブという場を、生まれた縁を紡いでいく。「はじめまして」は文字通り「初めて(1stツアーやそれ以前のイベント)」ということであり、今に至るまで、その時々の初めて(例えばその日初めてWUGのライブに来た観客)でもある。そうやってWUGちゃんとワグナーは歩幅をあわせて進んできたのである。ただし、歌詞上「悩んで正解を出す」のはWUGちゃんたちだけであることを忘れてはならない。
重なり合って響いて
信じられる明日に変わるよ
始まるパレード
何かと雑言飛び交う中で、何が正解か分からなくなっていった時期があったであろう。それでも彼女たちは考え続けた。そして最終的に「パレードを始める」ことを決意した。悩んで出した、区切りとしての正解なのだ。
わからずに空回り
もう離れてしまった糸も
時が経ち新しい未来で
いつかまた出会えるはずだよ
もう一度スタート
とはいえ、はたしてそれが本当に正解なのかは分からない。そうすることで離れてしまった人もいるかもしれない。しかしそんな人たちとも、この先また出会えるはずだ。これは終わりではなく、始まりなのだから。
結んで 解いて
途切れないように
meet you
はじめましての瞬間を忘れない
ここまで紡いできたものを結んで解いて、その繋がりを強固なものにしていく。新しい繋がりもまだ増やせられる。6年間のなかでたくさんの「はじめまして」があっただろう。その全てを決して忘れることはない。
進んで 止まって
歩幅あわせて
witu you
悩んで出した正解を
君と一緒につなごう
みんなに届くようにつなごう
彼女たちが悩んで悩んで悩み尽くして出した「正解」を、私たちも一緒につないでいく。それはSSAに来たみんなに届いたであろう。ともに歩いたパレードにおいて、私たちは繋がったのである。
曲もまた演者とともに生きている
創作物には、その製作者の魂や命といったものが込められている。ライブや楽曲もしかり、それらは決して無機物的な何かではない。人間によって創られ、そして人間によって演じられる以上、置かれた状況や時の変遷により、その姿形を変えるのだ。
ハートラインは当初、単にコラボレーションによって生まれた楽曲の一つであったが、現実の歩みに応じて、多様な役割を果たすに至った。それが偶然だったのか、それとも必然だったのかはあまり関係がない。結果として、「そのようになった」ということが、私にはとても面白く感じられるのである。
創作物が生きていることは頭では理解しつつも、これまでの人生で実際に目のあたりにすることはなかった。その意味で、これもWUGちゃんから受け取った一つの贈り物と言えるのだろう。そしてこのような事例は、きっとハートラインに限られる話ではない。私の思い及んでいないところで、同じような事象があったはずだ。それがまたワグナーによって語られるとき、物語は紡がれていくのだろう。そのような想いを馳せながら本記事を終えることとする。おつかれさまでした。