2020年1月より、アニメ『虚構推理』が絶賛放送中です。いや、絶賛なのかは知らず、さらに言えば本放送を追えてすらいない口で何を言うかという話ですが、きっと面白いアニメになっていると思います。なぜならば、『虚構推理』は城平京原作作品だからです。
もしアニメから虚構推理の原作に興味を持たれ、さらに原作者である城平京先生の他作品を読んでみようかなと思われたのであれば、是非とも手に取っていただきたいものがあります。それが『スパイラル 〜推理の絆〜(以下、「スパイラル」と言います)』です。というわけで、本記事はスパイラルについて紹介するものです!!! という名目で書かれたオタク思い出ポエム記事です*2。
【目次】
1.城平京という作家について
城平 京(しろだいら きょう、1974年6月15日 - )は、日本の推理作家、漫画原作者。奈良県出身[1]。大阪市立大学卒業[2]。
第8回鮎川哲也賞最終候補作『名探偵に薔薇を』(創元推理文庫)にて、長編ミステリデビュー。その後、漫画『スパイラル 〜推理の絆〜』(『月刊少年ガンガン』連載)の原作を手がけ、大ヒットシリーズとなる。2012年、『虚構推理 鋼人七瀬』で第12回本格ミステリ大賞受賞。
筆名は平城京のもじり。海中無脊椎動物をこよなく愛する。自画像はクラゲ。
引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%8E%E5%B9%B3%E4%BA%AC
大阪府立大学に東野圭吾あれば、大阪市立大学には城平京あり*3。
ミステリ作家としてデビューした後、スパイラル、『絶園のテンペスト』そして『虚構推理』等の漫画原作者として活躍。何だか規模の大きい世界観の下、少年少女が脳みそをフル稼働し、襲いかかる複数の困難を乗り越え、世界そのものの謎を解くような作品が多いです。(私見です)
また、漫画原作だけでなく、デビュー作の『名探偵に薔薇を』を始め、カエルの神様と相撲を描いた『雨の日も神様と相撲を』など、多作ではありませんが、どれも純粋に「面白い」と思える小説も書かれています。
それらの内、私が生まれて初めて出会った城平作品がスパイラルでした。
2.スパイラルを読もう
(1)どんな作品ですか
スパイラルは、1999年から約6年間にわたり月刊少年ガンガンで連載されていた、全15巻から成る心理論理バトルSF推理漫画です。「心理論理バトルSF推理漫画」とは私が勝手に呼称しているだけで、公式には「ミステリーアドベンチャー」と言われることもあったようです。ミステリと言えばミステリなのですが、いわゆる事件を解決して云々ではなく、自分たちの置かれた悲劇としか言えない状況を、知力でもってなんとか乗り越えていこう、解決していこうとする少年少女の奮闘を描いた、そんな作品です。
本作は2002年に2クールでアニメ化もされました。今になって調べてみると、そこまで評価は高くなかったようですが*4、当時小学生であった私は純粋に(放送される)毎週火曜日を楽しみにしていました*5。
アニメ版の評価が芳しくない理由の一つには、原作未完結のなかで連載と並行して制作されたものであったため、後半はオリジナル展開となり、「全く」とは言わないまでも別作品となってしまったことがあるようです。よくある話ですし、これはこれでいいと思うのですが、スパイラルが持つ魅力を映像化できていたかと言えば、否定的な意見にならざるをえないとは思います。というのも、物語が盛り上がりを見せるのは、まさしくアニメ化されなかった部分以降であるからです。したがって、是非とも漫画の方を読んでみていただきたいと思うのです。
(2)より具体的にどんな物語ですか
スパイラルの物語をどのように捉えるかは人それぞれですが、私の個人的な受け止めを以下に記述していきます。
①スパイラルは「自分の存在意義」を追求する物語です
本作は「ミステリ」の体裁をとりつつも、その実「自身の存在意義とは何か」を主題に置いた作品と言えます。主人公の鳴海歩(なるみ あゆむ)くんは、天才ピアニストかつ警視庁の名探偵と名高い清隆(きよたか)を兄に持ち、常に比較され、また自分でも比較し、どう頑張っても兄を越えることができないという劣等感を抱えながら生きています。「清隆の弟」としてしか認識されない、あるいはそのように認識されすらしない自分は一体何であるのか。自分は何のために存在するのか、または「自分は何のために存在すべきなのか」を作中を通じて自問自答し、逃れられない運命があることも受け止めながら、答えを見出していきます。
そして、もう一方で鍵となる存在が「ブレード・チルドレン」と呼ばれる子どもたちです。彼ら/彼女らは(戦闘能力を含む)身体能力・知能ともに優秀な存在であるとともに、一部の集団からは忌み嫌われ、時に命の取り合いをする環境で育ってきました。「呪われた子どもたち」とも呼ばれ、殺されても仕方がないと言い切る人(ブレード・チルドレンによる自称も含め)すらいます。彼ら/彼女らもまた、自分自身の存在意義に悩み、戦っていきます。
②スパイラルは圧倒的な幻想に対して論理で戦いを挑む物語です
作品中盤で明らかになる世界観は、非常にSFかつファンタジーであり、どこまで本当なのかは分かりません。証明が不可能である以上、それはある種の幻想でしかないはずです。しかし、作中で語られる種々の出来事を聞くに、世界はあたかもその原理原則に沿って動いているように見え、幻想こそが現実であるように思えてきます。事実、作中世界はその幻想を前提に回っています。
もちろん、心の底から幻想を信じている人もいるのでしょうが、その一方で、「幻想は真実である」との建前を崩すわけにはいかなくなってしまっている、とも言えます。というのは、その幻想を前提として、年端も行かない子どもに危害を加えてきたわけですから、人道的に引き返せない所まで来てしまっているのです。その状況下で、「そんな現実はありませんでした」となれば、自分たちのやってきたこと・信じてきたことが全て誤りだったことになります。そのような事実を、長きにわたり幻想に浸かってきた人々が受け入れられるとは考えにくく、また最悪の場合、世界の秩序が瓦解してしまう可能性すらあります。
ではどうするか。歩くんは、そのような強固な幻想に対して論理で立ち向かいます。幻想を否定するのではありません。幻想を前提にしつつ、その上で悲劇を回避できる方法はないか。言わば「誰もが納得せざるを得ない説明」を組み立てようとするのです。そして彼は一つの結論を導き、そこに自らの存在意義を見出し、実現に向けて力を注いでいきます。
③スパイラルは少年少女の成長を描いた物語です
①と重なる部分もありますが、スパイラルに登場する子どもたちは、基本的に自分自身を否定してきました。乱暴に言えば、「自分などいないほうがよかったのではないか」とか、「明るい未来などない」といった諦めの中で生きてきたのです。話を聞けば、そうなるのも宜なるかなではあります。
しかし、彼らは作中の出来事を経て、次第に一歩を踏み出していきます。ブレード・チルドレンは歩という希望を見出し、そして歩は自身の存在意義を見出し、それぞれの道を前へと進んでいくのです。
④スパイラルはハッピーエンドの物語です(諸説あります)
「成長する」とか、「存在意義を見出す」とか、こういった言葉は非常にポジティブなものに聞こえます。しかし、それらの導く結果が本当に幸せと言えるかどうかはわかりません。主観的・客観的にどうかでも大きく変わるでしょう。
本作のラストを読んだ後、あなたにはどのような感情が芽生えるでしょうか。
(3)どのような巻構成ですか
大まかに言うと次のような構成になっています。(やはり私見です)
・1巻 学園ミステリ
・2~3巻 登場人物紹介(を兼ねた推理ゲームバトル)
・4~5巻 VSブレード・チルドレン
・6~10巻 第一の山場
・11巻 ブレード・チルドレンについての解明
・12~14巻 世界についての解明および第2の山場
・15巻 ラスボス戦および種明かし
今読むと、絵柄の懐かしさも相まって、4巻ぐらいまでは読むのがちょっとしんどいかもしれません。ただそこを超えて6巻まで来ると、雰囲気がガラッと変わり、物語も大きく動き出していきます。併せて、作画担当である水野英多先生の絵もどんどん綺麗になっていきます。*6
上記に書きました物語についてのアレコレも、全て6巻以降の話です。じゃあ1~5巻は無用の長物なのかと言えば、全くそんなことはないので難しいところです。ゼロ年代初頭の雰囲気を楽しむぐらいのノリで読み進められてはいかがかと思います。なお、今さらですが、本作についてタイトル名で検索をかけると、あらゆる方向からネタバレが飛んでくるためご注意ください。
ちなみに、アニメ版は6巻に入るか入らんかぐらいまでを描いた後にオリジナルに飛んでいきます。*7
また、サイドストーリーを描いた『スパイラル・アライブ』や小説版といった派生作品もありますので、本作を気に入った場合にはそれらも手に取られてみてはと存じます。*8
3.最近の動き(余談)
作品生誕20周年を祝し、原画展が開かれました。
bookmark-asakusabashi.storeinfo.jp
開催にあわせて、過去に発表された画集の合冊電子版が発売されました。
水野英多画集 SPIRAL Complete Art Collection
- 作者:水野英多,城平京
- 出版社/メーカー: スクウェア・エニックス
- 発売日: 2019/09/06
- メディア: Kindle版
みんなかわいいね…かっこいいね…。幸せになってね…。
さらにコラボカフェの開催も決定しました
これらの動きは、スパイラルという作品において、私など比にならないほどの根強いファンが数多く存在している証左であり、再始動の狼煙に他なりません……そのうち再アニメ化でもされるのでは!? と、勝手に楽しみにしています*9。そんな日が来てほしいなあと思いながら、まずは小説版の電子化を願う今日この頃です。(toスクエニさん)