2024年度のビジネス実務法務検定1級試験に合格した。素直に嬉しいものである。
この資格の受験を検討したことがある人ならば、必ず思うことがあるだろう。何とも勉強法・対策法の情報が少ない。業界的には知名度があるはずなのだが、もろもろ情報が不足している。端的に言って受験者数が少ない点が主な原因であろう。そこで、先人に倣って、1級の受験にあたり自分がどのような学習をしたかをここに共有しておく。
なお、先に筆者の属性を書いておくと、これまでに法律系学問・資格の学習経験が一定程度あり、また、日常的にも一定程度法律文書に触れる機会があるため、完全な初学者ではない。一方で、筆者の獲得点数は合格ラインぎりぎりであった。何かを一歩間違えていれば不合格であったレベルである。このような者による、個人的な感想を含む一事例である点につき、あらかじめ留意されたい。
1.学習に使用した資料
・1級公式テキストおよび問題集
・六法
試験対策を目的にするならば、インプットする知識としては公式テキストと問題集の内容で十分である。厳密に言えば、テキストにも問題集にも載っていないと思われるテーマが出題されることがある。例えば、2023年度の選択問題には、労働法の分野として、厚労省の研究会で挙げられているハラスメントの6類型を答えさせる設問があったが、この6類型はテキスト・問題集には載っていないはずである。言い換えれば、この二冊を完璧に理解していても対応できない問題が出ることもある(一方で、人事労務実務に携わっている受験者からすれば、上記設問は比較的容易に解答できたということになろう)。したがって、記載内容をすべて覚えようというほどの心意気は不要である。仮に本番においてこのような出題に出会った場合には、実務上どうかや、客観的に見てどのような結論が妥当かとの視点から検討を行えばよい。
2.取り組んだ学習法
テキストと問題集を3周ずつ通読した。あなたが法律等・法務実務に相当程度慣れているなら、問題集だけでも事足りると思われる。私はそうでないので両方を用いた。
(1)テキストの使い方
ネット上の諸先輩方の記載を見ると、テキストは記載が冗長である旨の評価を見かけるが、これは読者が一定の知識を持っている場合の感覚になると思われる。とりあえず1週目は一から読んでみたほうがよい。そして数10ページ読んでみて、あなたが同様に「冗長だな」と感じるのであれば、1ページずつ目を凝らして読む必要はない。一方で、そのようには感じないのであれば、インプットを兼ねて丁寧に通しで読んだほうがよい。ただし、他の資格試験と同じく、一回ですべてを理解する必要はないし、そもそもすべてを理解する必要もない。そのぐらいの感覚で読み進めていくべきである。
テキストは、単元に関係する法律の概要説明等が書かれたパートと、事例問題のパートに分かれているが、冗長と感じるのは主に前者のせいであり、おおむね理解ができるならどんどんとばしてよい。
テキストで重要なのは、事例問題のパートである。というのは、結局のところビジ法1級は事例問題を解く試験だからだ。ただ、ここで注意すべきは(問題集の方を見ると分かるが)、実際の試験問題とテキストの事例問題では、若干出題の形式が異なることである。テキストの問題は、実際の試験問題より事案が単純化され、出題の単元も細分化されている。したがって、テキストの事例問題だけでは、試験対策としては力不足になるのだが、事例上のどのような情報に目をつければよいかについては、テキストのほうが目配りがきいている感じがする。問題を通して何を問われているのか(論点がどこにあるのか)を知るコツをつかむには、問題集よりもテキストの方が有用であるように感じた。
事例問題に取り組むにあたって、実際に回答の起案をしてみる、といったことはしていない。そこまでやる時間が確保できなかったからというのが実際の理由ではあるのだが、「何を書くか」の検討ができるようにする方が重要だと考えたからでもある。つまり、何を問われているかが分かれば、あとはその問われた要素を用いて文章化すればいいのであって、そして文章化自体はもはや改めて練習するまでもないから(採点者に意図が伝わる文章を書けばいいだろうぐらいの発想で)、書く練習自体はしなくてよいと考えたのである。
そのうえで、準備具合の目安としては、問題となる事例を見て、何が問われているのかを箇条書きで挙げ、それらをどのような順序で論じて、結論をどうするかを頭の中で考えられるようにした。
(2)問題集の使い方
おおむね、テキストの事例問題と同じである。
(3)六法の使い方
他の法律系資格の学習と同じく、事例問題に取り組む際には傍らに置いて、必要に応じて条文を確認できるようにしておくとよい。
なお、六法への書き込み等が許容されるかについては、過去から特に問題ないとされているものと思われるが、少なくとも2024年度実施分については、個別に問い合わせたところ、アンダーライン・マーカーを引き、付箋(文字無記入のものおよび六法に付属する法令名インデックス)を貼ることは問題ないとの回答を得た。おそらく来年度以降もこの取り扱いは変わらないと思われるが(六法を持ち込み可能な試験としては一般的な取り扱いと思われるため)、念のため確認されることをおすすめする(安心できるため)。
また、知的財産権法文集も持ち込むことが可能であった。特許法・著作権法等は六法に抄録しかないか、またはそもそも掲載がない場合があるので、選択問題で知財が出たら絶対に解くぞという意気込みのある方は、お守り代わりに持ち込んでおくことをおすすめする。
3.学習にあたっての留意点
理解を優先すべき分野は、言わずもがな民法・会社法である。共通問題・選択問題ともに、ほぼ間違いなく出題されるからである。
民法の中でも例えば委任・請負(委託)・製造物供給契約のルール、債務不履行・契約不適合責任の考え方といったテーマは押さえておくべきである。そのうえで、債権の回収方法の流れを説明できるようにしておく。言い換えると、何かしらの契約を結んだ→何かしらのトラブルがあった→このトラブルの終着点をどこに持っていくかについて、事例や契約、トラブルのタイプに沿って説明できるようにしておくとよい。
また、会社法については、総会決議事項の種別、合併・会社分割の効果あたりは押さえておくとよい。
そのうえで、独禁法、破産/民事再生について、どのような条文があって、それらがどのように適用・使用されるのかについて理解しておきたい。ただし優先順位としては、民商法に比べて一段落ちると思われる。
以上のほか、知財法、労働法、個情報その他もろもろについては、あなたが実務上で関わっている分野を優先するのがよい。学習の効率からはもちろんのこと、ビジ法の趣旨からしてもそうするのがよいと思われるからである。実務上特に法務には携わっていない場合には、近時の過去問で問われている分野のうち、好きなものから優先すればよいと思う。
なお、テキスト等では、解答にあたっていわゆる法的三段論法に即した記載が望ましい旨が説明されているが、実際上意識しすぎる必要はないと思われる。例えばあなたが会社で法務相談を受け持っているのであれば、その業務上で作成する文書と同じノリでよい。ただ、普段は省略しているかもしれない大前提から書き起こすことは意識した方がよいと思われる(言い換えると、私はそのようなレベル感で解答をした)。
日常業務が法務から離れている方においては、条文と一般的な感覚(平たく言えば「世の中ふつうはこうだよね」といった感覚)を大切にするのがよいと思う。知識問題(例えば何が請求できるかを問われる問題)は条文に沿って基本となるルールを述べる必要があるが、どうするべきかが問われた場合には、与えられた条件の上で妥当(と思われる)解決策を答える必要があり、そこでいう妥当とは、すなわち一般的な感覚に沿って答えれば、大きく正答から外れることはないだろう。
本記事は以上となるが、少しでも参考になれば幸いである。なお、思い出した点があれば適宜に追記・修正される可能性がある。