誰しも脈絡もなく唐突でも記憶の底から呼び起こせるものがあるだろう。私の場合、90年代のアニメ作品の一つ、B(ボンバーマン)ビーダマン爆外伝のとある回がそうである。具体的には、第15話の「嵐の夜のミステリー」、そして第18話の「発見!迷宮の秘宝!?」である。なぜだかこれらの回だけが強く印象に残っており、「Bビーダマン爆外伝」と聞くとフラッシュバックするのだ。なお、さも話数とタイトルまでしっかりと覚えていたような書き出しだが、Wikipediaを見て調べた。
何の説明もなく始めてしまったが、そもそもBビーダマン爆外伝とはどのような作品なのか。一定の世代の方ならタイトルからお察しのとおり、「『ボンバーマンシリーズ』(ハドソン)のキャラクターをモデルにした玩具『ビーダマン』(タカラ)の初のテレビアニメ化作品」(Wikipedia)であり、しろボン、あおボン、あかボン、きいろボンを主人公グループとして、名前のとおり博士ポジションであるグレイボン博士、敵か味方か分からないくろボンなどの多種多様な登場人物が織りなす、戦隊モノのような作品である。位置づけとしては玩具販促のためのメディアミックス作品で、しろボンたちが乗るビーダアーマー(モビルスーツ的なやつ)等の商品展開がされていた。私も親に買ってもらった記憶がある。なお、友人に借りたゲームボーイソフトはシステムがよく分からなかった。1998年当時、日曜の朝7時から放送されており、基本的にはビデオに録画して後から見ていたが、最終回だけ予約を忘れ、結局今に至るまで見たことがない。別冊コロコロコミックで漫画連載もされていた。
何かしらの手段をもってオープニングテーマ「きっと明日は晴れるから」を聞いていただくと分かるとおり、基本的には明るく楽しい雰囲気だが、ちょっと感動するような話もあった気がする。今思うと、アニメ版の妖怪ウォッチが同じ雰囲気を持っているかもしれない。敷衍すると、視聴者である子どもの親世代が見たらわかるようなパロディがあるかもしれない点も含めて、そう言えるかもしれない(なお、そのようなパロディ表現が散りばめられていたのかどうかはよく分からない)。
本当かどうかは知らないが、いつかに目にした話によれば、本作は「ボンバーマン」と「ビーダマン」という、ホルダーの違う2つのIPで構成されているため、版権処理がややこしく、その結果として、長らくソフト化も配信もされていなかったとのこと。確かに、数年前に、久しぶりに見ようかなと思って各配信サイトを巡ったのだが、どこにも取り扱いがなかった。近時にあらためて整理がなされたのか、今般確認すると、dアニメストア等で視聴することできるようになっていた。ということで、何がそんなに印象的だったのか、せっかくだから見直してみることにした。
まずは第15話である。グレイボン博士の声が記憶よりも数倍かっこよく、全然おじいちゃんじゃない。キッチンの高さに合わせるため、あかボンが踏み台に乗ってケーキを作っている(細かいね)。みんな足音がモキュモキュしていてかわいい。
第15話は端的に言うとミステリ回である。部屋の中でたんこぶを作って倒れていたグレイボン博士。彼は一体誰に殴られたのか。探偵役を務めるあおボンのセリフ回しが、いかにもミステリである。レッドヘリングなギャグの応酬を挟みつつ、とにかく会話のテンポがよく、そしてその内容が楽しい。きいろボンが「人間離れした」との表現を使っていたり(人間とは?)、もとい、みんなして使う語彙が何だか難しいのである。
「どういう了見や!」「民間人は黙ってなさい」「私は頭脳労働担当です」。きいろボンが関西弁で喋るので余計にややこしいところが面白い。当時の私も、音だけ認識して意味が取れなかった気がする。
唐突に、しろボンが十手と「POLICE」と書かれた提灯を持ち、さながら岡っ引きのような姿を見せるが、自然な流れで笑ってしまう。そうこうしているうちに落雷により停電が発生し、第2の事件発生を告げるきいろボンの悲鳴をもってAパートが終了。鮮やかである。
Bパートになっても勢いは全く衰えない。ショートコントが絶え間なく続き、起伏を帯びた展開が視聴者を飽きさせない。そして、探偵あおボンが、集合した関係者の前で謎解きを始め、事件の真相が明らかになる。最後に残った謎がそのままオチとなり、美しい締めである。
改めて見ると、一話をとおしてボケ倒しである。要はシチュエーション・コメディなのだ。登場人物全員がボケとツッコミを担い、その役割が次々に入れ替わる。しかし、脈絡なく小ボケやギャグを放つのではなく、その一話全体を貫くテーマはあって、最後にはきっちりと収束する。見終わって、なぜこの話を覚えていたのかを思い出した。それは当時に何度も見返したからであり、そうしたのはシンプルに面白かったからである。
この勢いで第18話も見てみよう。数千億B円(謎単位)の価値があると言われる「ゴールデンメアリ像」を探して、バイオハザードもびっくりな割と殺意のある仕掛けだらけの古い洋館を探索する話である。トレジャーハント回だ。冒頭から当然のようにタクシー代を払わない3人もひどいが、あてつけに運転手を殴り飛ばすきいろボンもひどい。
舞台設定的に、遭遇する仕掛けをもっと増やすこともできただろうが、限られた尺の中で必要十分な描写を選んでいるように思えた。どこか変な、おかしみのある仕掛けであり、何と言ってもやたらと規模がでかい。登場したもの以外にも、同じような特徴を持つ仕掛けが多く存在しているのだろう。見ていてそういう想像が働くのである。
第15話と同じく、会話も楽しい。「まるでエッシャー本の騙し絵みたいです」と言うあおボンは流石の博学さだが、ビーダマン界にもエッシャーがいるのか? 宝物かと思って被された布をめくると、現れたのは信楽焼のタヌキで、しろボンが「なんでこんな物があるんだ」と言うが、本当にそのとおりである。きいろボンには自身の激寒ギャグによって市街地が壊滅した悲しい過去があり、なぜか世間ではシェーが流行っている。
本話で鮮明に覚えていることが二点ある。と言いつつ記憶違いかもしれない一点目は、本当にどうでもいい点なのだが、あかボンの動作と、画面右上の時刻表示が一致していたことである。先述したとおり、本作品は当時早朝に放送されており、画面右上には、今でもおなじみの時刻表示がなされていた。そして、本話中(dアニメ版であれば8分50秒ごろ)において、あかボンが背後を通過する何かの気配に驚くシーンがあるのだが、ここであかボンの左上に気付きの背景効果(こういうやつ)が表示されるタイミングと、時刻の分が刻まれるタイミング(例えば07:10が07:11に変わるタイミング)が同じだったのである。書いてみると、本当にどうでもいい話だが、そういうこともあるんだ! と幼少期の私は驚いたのだろう。
二点目は、あかボンとあおボンが、変わり果てた姿になった屋敷の主ドワスレボン(CV.肝付兼太)に出会った時のやり取りである。dアニメ版だと14分頃から始まるこのやり取りを、聞き取りママだが引用してみよう。
(ひげもじゃなドワスレボンの姿に怯えるあかボンとあおボン)
あおボン「モンスターです~」
ドワスレボン「もしもし。もしもし。私はおばけじゃありません。あんまりこんなみじめな姿を見せたくなくて。私の名前は」
あかボン「太古の昔の原人ボッコ」
ドワスレボン「(唐突に原始人の風貌となって)アアエ~イエエ」
あおボン「一応ツッコミに対するボケはできるみたいです」
この会話が本当にあまりにも好きだった。ここだけ何度巻き戻して見たことだろう。どうして直前まで怖がっていたのに急にあかボンは大喜利を始めたのか。どうしてドワスレボンは原始人の姿に早着替えして対応したのか。どうしてその光景をあおボンは冷静に分析しているのか。何も分からない。面白すぎる。今見てもやはりだいすきである。そしてここで気づく。おそ松くんでイヤミを演じた肝付兼太だったから、シェーだったのだ。
その後、ドワスレボンのうっかりによってお屋敷破壊システム(直截的すぎる)が作動し、しろボンたちは命からがら脱出に成功。ゴールデンメアリ像を捨て、しろボンの身の安全を優先したきいろボンは、お金よりも大切なものを見つけたのだった。ありがちだが普遍のテーマである。しかし、湿っぽくは終わらない。先ほど捨てたゴールデンメアリ像は偽物で、本物は屋敷の外の散水栓ボックスの中に隠されていたのである(何で?)。散々振り回されたドワスレボンに怒り心頭のきいろボンは、しろボンに「まだ体力残っとるか」と問いかけ、しろボンは力強く「協力するぞきいろボン!」と答える。これも一つの友情の形であろう。3人で織りなす古典的ケンカ煙の中から放り出されたメアリ像が視聴者に向けてウインクし(何で?)、第18話は終わりを迎える。
見終わって、なぜこの話を覚えていたのかを思い出した。やはり当時に何度も見返したからであり、そうしたのはやっぱりやはりシンプルに面白かったからである。
以上、印象的で記憶に残っている二つの話を見返してみた。実は、これらについて面白いとか、好きだと思った要素は、今の私の嗜好と全く変わらない。というよりも、これらが原体験の一つだったのかもしれない。破綻しているように見えてすごく整然としていて、ボケ倒しているように見えて全部計算されている。真面目な顔をしながら、何か変なことを語っていて、それでおかしみが出て面白い。そういう作品や、登場人物のやり取りが好きだ。これはきっと本作の影響を受けたものだろう。今では、そうはっきりと言うことができる。
そして、幼少期に触れた作品の存在の大きさを噛み締めながら、長い時間を経た今、最終回を見て思う。多分、日常回以外はあんまり興味なかったんだろうな。