死に物狂い

他人から影響を受けやすい人間のフィクション日記

DJとはこういう職業だったのか

 デレマス24時間特番を見ていた。詳しく前情報は知らなかったが、Youtubeを開いたら丁度おすすめに上がってきたため、そんなものがやっているならぜひ見ようと思ったものだった。

idolmaster-official.jp

 

 私のアイマスへの関わり方と言えば、2015年に当時の西武プリンスドームで行われた『M@STERS OF IDOL WORLD!! 2015』への参加を最後に、それらの展開を少し離れたところから見聞きする程度ではあったが、こういうお祭りごとは楽しいに違いない。事前に番組プログラムを調べていたわけではないが、それこそとりあえずラジオをつけておくのと同じ感覚で、Youtubeを開いていた。

 

 

 さて、夜も更けた23時の頃、スピーカーから聞こえてくる声によれば、日を超えたところからDJタイムが始まるという。DJ。いつの間にか(もとい私が知らないだけで、はるか昔から親しい文化だったのかもしれないが)オタクとDJは混ざり合い、特にコロナ禍以前には、そこかしこで関連のイベントが行われていたと聞く。かくいう私は、恥ずかしながら、オルスタのライブですらなかなか足を運べない程度に人口密度の高いところが苦手であるため、これまでにそういった現場に赴いたことはない。せいぜい数回ネットで中継を見たことがある程度である。また、その際も「こういう世界もあるのだな」と思うぐらいだった。

 

 つまり、日常的にDJというものに触れた生活を送っているわけではない。しかし、作業用BGMとして番組を視聴していた私にとって、何であれ音楽がかかるのは好ましいことである。なんとも素晴らしい企画だなあと思っていたところで、ふと「DJ KOO」さんの名前が聞こえてきた。

 DJ KOOさんといえば、デレマスの7thライブ名古屋公演においてサプライズ登場し、当時プロデューサーさんたちの話題をかっさらっていったという。当時TLが大いに騒いでいたのを覚えている。

 何がその大絶賛を生んだのか。純粋に興味はあったが、今に至るまで、あえて調べることはなかった。在宅ながらにして、その凄みを一端でも体感できるというのはこれもまたご縁であろうから、身を正して耳を傾けることにした。

 

 

 KOOさんの前に、井上拓さんそして桜咲千依さんのプレイ(と言うのが正しいのかも分かっていないが)がなされ、それらもまたそれぞれ時間を忘れる内容であった。しかしここにおいてはKOOさんのプレイについての話がしたい。

 まずKOOさんの力強い声に驚いた。通る通るどこまでも通る。何を隠そう、私はKOOさんの声すらしっかりとは知らなかったのである。「TVで観るのと違ってめっちゃかっこいい!!」といった感想もよく見たのだが、逆にTVでKOOさんの姿を見たことがなかったので、そのようなギャップは感じられなかった。だからこそ、先入観なく聴けた部分もあったかもしれない。いずれにしても、KOOさんの声はストーンと耳に入ってくるのだ。嫌味がなく、いい具合にザラつきがあり、聴き心地が良い。何よりも、自身のサウンドと合う。

 KOOさんはそんな声でよく喋る。それは前のお二人と比べて、また私が近時に見たことのあるDJの方々と比べても印象的な点だった。人によってはそれをうるさいと感じるのかもしれない。黙って曲を聞かせてくれ。そういった意見があったとしても何ら不思議ではない。

 しかし、KOOさんのMCはコミュニケーションである*1。もしかすると、自分が喋りたいから喋る、という部分もあるのかもしれないが、その本質は客席との対話であり、完全に一つの盛り上げ道具として自分の声を活用していた。そこに嫌らしさはない。

 そしてこのMCは勢いでなされているものではなくて、きちんとした理論的基礎に沿ったものであるらしいことが、ご自身のYoutubeチャンネルを見ると分かる。場当たりではない、長年積み上げられた技術なのである。

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 そしてMCの快活さと同様に、曲にエフェクトがかけられていく。正直に言えば、何が行われているのかはさっぱりだが、KOOさんの一挙手一投足によって曲に変化が生じていることは分かる。くぐもって、遠くなって。水中から顔を出したような感覚。やたらめったらのシンバルとファファファファーンと聞こえるアレ。破綻するかしないか、ギリギリのところを綱渡りしているかに思えるが、しかしきっとそうはならないだろうとの安心感もある。

 これもまた「緊張と緩和」かもしれない。EZ DO DANCEから始まって以降、ある種のピンと糸の張った空気があったと思う。息をつく暇がない。そして『CRAZY GONNA CRAZY』でようやく世界に帰ってきた気がした。ふっとリラックスしている自分がいることに気がつく。ダンサーさん二人とともにブースで踊るKOOさんが、素直にかっこよかった。

 

 

 DJという職業をよく知らない。曲と曲との繋ぎが大事らしいと聞いたことがある。あるいは、セットリストでセンスが問われるとか。自分で曲をリミックスする方もおられるらしい。

 プレイする側も、それを聴く側も、おそらくは様々なスタイルがあって、何が正解というわけでもないのだろう。もちろんそこには主流・傍流、また流行りがあったりはするのだろうが。会場の雰囲気を見ながら流す曲を変えることもあるというのは、同じく一人高座で芸をする点からしても、何だか噺家に通じるところがあるなと思う。

 それで言うとKOOさんは、おぼろげながら私が持っていたDJのイメージに近いものがあった。派手な立ち姿によく回る口、そして縦横無尽のエフェクト。もとい、そのようなDJのイメージは、そもそもKOOさん自身によって作られたものだったのかもしれない。

 一方でそんなKOOさんのスタイルは、もしかすると今風ではないのかもしれない。知らんけど。

 

 

 全てのプログラムが終了し、出演した3人のDJが揃い踏み、和やかな雰囲気の中、感想戦が繰り広げられた。井上さんが「先輩のプレイを見てすごい勉強になりました」と投げかける。するとKOOさんは笑顔で謙遜しながら「いやいやいや、俺エフェクトいじりすぎだから」と返したのだった。

 その言葉に私は、まことに勝手ながら、KOOさんのDJとしての矜持を感じた。自分のプレイの特徴を理解していて、それが傍からどのように見えうるのかを認識した上で、しかし「それこそが自分であるのだ」と言っているかのように思えた。そしてその姿勢を、私はとてもかっこいいと思ったのだった。

 曲の持つ力はもちろんのこと、ときに自分自身も最大限に活用して、観客とともに一つの熱空間を作り上げる。なるほど、DJとはこういう職業だったのかと、私はこの日知ったのだった。

*1:そもそもMCとはそういうものかもしれないが