11月は一冊も読めない予感
既存大手のレコード会社、映画会社等のコンテンツ会社の強みとは。そして、今日に至るまでそれらが業界を支配し続けられてきた理由について、歴史を振り返りながら解説。さらに、NETFLIX等によって状況がどう変化してきたか。
大手の力というのは、商流における支配力に等しい。例えば、大手レーベルに属さなければ、ラジオで曲が流れることも、店頭にレコードが並ぶこともない。大手配給会社の力がなければ、全国の映画館で放映できない。そもそも広報する手段もない。発信のチャンネルが限られていた時代においては、彼らの力を借りなければ消費者へリーチすること自体が難しく、したがって大手の力は揺るぎないものだった。
しかし、大手でさえ消費者との関わりは一方的か間接的なものであった。テレビで言えば、視聴率は計測できても、消費者がどういう状況で視ているのか、どこに注目していたのか、何に満足感を得たのかまでは分からない。そのため、コンテンツ作りはどこまでいってもギャンブルである。制作にあたっては「売れるかもしれない」程度の確信では足らず、なるべく冒険はしないようにする。その結果、クリエイターの自由度は下がることとなる。
ところが、デジタル技術の発達により状況は大きく変る。例えば、プロユースの道具が個人レベルでも取り扱えるようになっている。多くのプラットフォームが生まれ、配信手段の選択肢が増えたことで、大手の力を借りなくとも消費者にコンテンツを届けられるようになった。
さらに言えば、現代のプラットフォーマーは、以前と比べ物にならない次元で個人の行動や嗜好を収集・分析できる。映像配信で言うと、どのシーンを繰り返し見ているのか、どこで一時停止しているのかといったように。視聴率のような抽象的な指標ではなく、具体的に何にどれぐらいのニーズがありうるのかが分かる。このため、過去の成功体験に引きずられることがなく、多様なテーマ・脚本にチャレンジできる。地上波(CATV)と違って尺の心配も要らない。その結果、これまでの業界における常識では考えられないようなコンテンツが生まれ、しかもヒットする。
こうして、プラットフォーマーは、自らが保有する圧倒的な利用者数とデータ量を基に、コンテンツ配信者へと変身していく。こうなると、大手はコンテンツの配信権を盾に交渉することも叶わず、その影響力は縮小し、数ある一つのコンテンツホルダーとなっていく。勘で戦い成功してきた既存のコンテンツホルダーが、データに基づく軽量的な意思決定による新参者に押されていく。
アマゾン・スタジオのトップ、ロイ・プライスはこのアプローチをハリウッド・リポーター誌のインタビューにおいて、次のように要約した。「視聴者の80%がなかなか良いと思うようなコンテンツを持っていたとしましょう。彼らはそれを見てくれるかもしれませんが、最高だったとか、お気に入りだとか考える人はいません。一方で、30%の視聴者が良いと感じるコンテンツがあったらどうでしょうか。彼ら全員が全エピソードを見て、気に入ってくれるような作品です。オンデマンドの世界では、後者のコンテンツの方が価値があります。
(Kindleの位置No.3308-3314)
大衆を広く対象とするのではなく、狭くとも深く刺さるものを作るようにする。と言ってしまうと簡単にすぎるかもしれないが、要はそういうことではないでしょうか。(ということで恋愛リアリティショーが多く生まれているのだろう)
ただこれができるのは、「狭い」とはいってもその規模が小さいわけではないからだと感じます。NETFLIX等が念頭に置く市場は北米を始めとする全世界なわけで、その範囲におけるニッチだから、とはいえ十分な嗜好者がいるわけで、ゆえに採算も取れるのだと思うわけです。
その昔、スマホゲーに携わる方に「ガチャ以外のマネタイズ方法ってないんですかね」と聞き、「最も効率の良いやり方であり、狭い国内市場では仕方がない」との返答を頂いたことがあります。つまり、よく言われるように、薄く広く取るのか、濃く狭くとるかという話で、ターゲットを国内市場に向ける場合には、その規模から後者での設が難しいので、必然的に前者の最もたる方法であるガチャが選択されるということらしいと。
正しいかはともかくとして、納得はできます。となると、今国内のスマホゲーの多くは主に国内市場にしか目を向けていないということになります…なるのでしょうか? と、疑問はあるのですが、ストアのランキングを見る限りではあながち間違いでもないのでしょう。
アプリゲーに限らず、国内に展開されているコンテンツを考えたとき、企画段階から海外市場を意識したものはどの程度あるのでしょうか。と言ったそばからアレですが、「海外市場を意識する」とが具体的に何を意味するのかよく分かってはいません。ただ、これはコンテンツの内容をどうするかという視点ではなく、結局どうプロモーションしていくのかの問題だと感じる部分はあります。(いずれにせよろくにコンテンツを追いかけているわけでもない人間が言えることでもないのですが)
また、一コンテンツ制作者視点では、流通を頼る相手が変わっただけにも思います。かつては大手のコンテンツ会社に対して、自らの制作物を取り扱ってもらえるよう働きかけていたように、今は新興のプラットフォーマーに取り上げてもらえるのを目指す。
現実の店舗における棚を確保できなければ、そもそも売ることすらままならない時代と比べ、チャンスがあるだけいい時代になったということかもしれません。しかし、陳列棚が無尽蔵に広がったからといって、消費者一般にリーチできるとは限りません。端の見えない陳列棚を目の前にして、その中から一つを選び取るのは至難の業です。
確かに、昔と比較してその取りあえげられる対象が広がっていることはあるかもしれませんが、配信者が無尽蔵に増えた現代において、消費者が自らの力のみで自らが求めるコンテンツに辿り着くのは困難です。だから、データを用いて分析し、売れそうな相手に売れそうなものを作ってお届けする。よくよく考えれば、純然たるマーケティングに違いなく、どういうものが売れるのかをより論理的に考えましょうね、という結論にまとめられるでしょうか。*1
PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話
- 作者: ローレンス・レビー,井口耕二
- 出版社/メーカー: 文響社
- 発売日: 2019/03/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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過去の(ジョブズの私財で生きながらえていた時代の)PIXARに参画した主人公の目線を通し、上場に行き着くまでの過程を書いた本。胃が痛い。
先述のガイドを読んだ後だと、ディズニーの立場的な強さがよくわかります。御存知の通り、PIXARはトイ・ストーリーでもってその名を広く知られたわけですが、その制作契約の内容がガチガチにディズニー有利な内容。実績のないところに任せるのはギャブルよりもギャンブルであるため、そのようなリスクヘッジを行うのは当然ですが、契約当事者としてはたまったものではない。
嫌な人が一切でてこないので安心。そればかりか、一生に一度はこういう心持ちで仕事してみたいなあとも思う。でも私だったら間違いなくストレスで退場するな。
良いものを作れば評価されるはずだ、という考え方は間違っていないと思いますが、完成し世の中に発表されなければ意味はありません。「PIXARが成功したのはなぜか」と問えば、「成功するまでジョブズが資金を供給していたから」との理由が土台にあり、とにもかくにもお金は大事だと教えてくれます。素晴らしい人材が揃っていても、先立つものがなければどうにもならないのです。その点ではエンタメを商売にする難しさも強く感じました。
また、お金と並んで人脈も大切です。作中において、著者は自身がこれまでに積み上げてきたネットワークを活用し、上場の準備を進めていきます。頼りがいのある人たちが、次から次へと出てくる出てくる。それらは、著者の前職時代の実績に伴うものであり、やっぱり人に人は集まってくるんだなあと思った次第です。お仕事頑張ろう。
*1:ただ、売り方や何を作るかの検討は論理的であるべきですが、それは必ずしも作品の内容が論理的であることを求めるものではない点について留意する必要があると思います。