死に物狂い

他人から影響を受けやすい人間のフィクション日記

行ってみよう南砺市桜ヶ池公園

 2019年7月13日、私は白川郷に向かっていた。昔の昔に『ひぐらしのなく頃に』の体験版をプレイして以来、行こう行こうと思っていたのだが、特に行動に移すこともなく今に至っていた。人生において生活圏から最も近くなっている今のうちに行かなければ、今度こそいつ行くか分からんなと思い、(毎度ながら)唐突に訪れることにしたのだった。また、行った道を帰ってくるだけだと面白くないので、白川から富山に抜け、日本海を見た後、新潟→長野→名古屋とのルートを取ることにした。目当ての観光地や食の楽しみがあったわけではなく、単に遠くへ行きたかっただけである。

 

 来てみれば近いものである。始めて見る白川郷の景色は清々しく、「夏」という漢字をそのまま身体にぶつけられた気がした。また、「ようやく来れた」との感情が強く、感動と興奮が私の脳をかき混ぜていた。言うまでもなく、白川郷は雛見沢とイコールではない。そもそも白川は一般的にも有名な地であるから、近時のコンテンツと異なり、街自体にひぐらしが息づいている、というわけでもない。アニメ放映当時は、作風が作風なだけに、住民に戸惑いもあったと聞く。それでも古手神社のモデルとなった白川八幡神社の鳥居をくぐった時には、そこが雛見沢である感覚を覚え、またひぐらしの世界とともに、自分が過ごした当時の時間も思い起こされ、感傷的になった。痛絵馬を見て、あちらの世界にはどのような絵馬が吊るされているのだろう、などと思った。

 

 一通り散策し、どぶろくジェラートを食べた後バスに乗り、富山へと向かった。ふらふらと白川郷に「行く」ことが今回の旅のメインミッションだったが、一応サブミッションとしてもう一つ目的があった。P.A.WORKS本社への巡礼である。行ったところで何もないのは分かっていたが、もののついでに、SHIROBAKO完成祈願も兼ねて足を運ぶことにしたのである。

 乗りかえのためJR城端駅でバスを降りたところ、次のバスを待つついでに周辺を散策することにした。地図を開くと、ちょうど近隣に善徳寺なるお寺があったため、とりあえず行ってみることにした。由来も歴史も知らないし、門が開いているかも分からないが、深くは考えずに足を伸ばしてみる姿勢である。*1

 道中で「なんとセフレ」というなんともまあなスーパーに出会った。もちろん変な店ではなく、ただのAコープである。しかし、南砺(なんと)市という地名と、「セーフティフレッシュ」の略語が奇跡的な化学反応を起こしてしまったらしい。敬意を込めて水と食料を買った。

 余談だがSwarmでチェックインしたところ、コメントがひどくて面白かった。

 

 

 善徳寺から城端駅へと戻り、南砺市営バス(「なんバス」と言うらしい)に乗って桜ヶ池へと向かう。窓から見えるのはほとんどが農地だ。何もきっかけがなければ来ることはなかっただろう。しかし、私とは関係なくここで生活を送る人がいる。それもまた当たり前のことではあるが、面白いなあと思う。そうしている内に、バスは目的地へと到着した。

 

 桜ヶ池に着いて早々にP.A.WORKS本社への祈願訪問を達成してしまった私は、帰りのバスが来るまでの2時間をどう過ごすか考えていた。ここで夕食をとるにしても、1時間は余る。そういう人はどうするか。もちろん周辺の散策である。地図を見ると、「桜ヶ池展望台」と称された場所がある。白川郷の展望台が脳裏にちらつき、吸い込まれるようにして、私はそこに向かうことを決めた。(以下、画像多め)

 

 雨がぱらつく中、桜ヶ池の外周に沿って歩いていく。展望台は「桜ヶ池公園」と呼ばれる一帯の中にあった。公園敷地は広く、見た感じ多くの遊具が設置されていて、さらにスケートパークも併設されており、家族連れも楽しく時間を過ごせそうである。ただ、この日は天気が悪かったためか、人はほとんどいなかった。

 

 通路を進んでいくと、目の前に展望台が現れた。

f:id:sorobanya:20191022165839j:plain

 突き出ているのはすべり台か。遊具としての機能も持っているのだろう。詳細が若干気になりつつ、まずは当初の目的を果たすことにした。階段を上っていく。はたしてどのような景色が私を待っているのだろう。

 

f:id:sorobanya:20191022170009j:plain

 ほとんど見えなかった。私を待っていたのは元気に生い茂る木々の姿だった。いや、見えないこともないのだが、視界のほとんどは木である。こいつは一本取られたなと笑う私を、手すりにいるアマガエルが無表情で見つめていた。

 展望できない展望台にいても仕方がない。乱れた息が落ち着いたところで階段を下り、来た道を戻ろうとした時、一つの看板が目に入った。何が書いているのだろう。急いでいるわけでもなし、気になった私は、足を止めて看板の記述に目を通した。

 

f:id:sorobanya:20191022170838j:plain そこには遊具の説明が書かれていた。しかし、全体的にひっかかる。のっけから「良いコドモ」認定してくる割には一切振り仮名がない。それに、何か教訓めいたことを言おうとしている。内容自体は、安全な遊具利用の観点からしてまっとうであるが、最後の「他の子にも愛情かけてあげられるオトナになりましょう」との言葉は、単なる注意喚起にとどまらず、人生を説くものである。南砺市は遊具を通じてコドモの人生観を育もうとしているのか。

 

 こうなると「他の看板はどうなっているのか」と気になるのも必然である。すぐさま私は、展望台の隣の遊具に向かい、そこに立てられた看板へ顔を近づけたのだった。

f:id:sorobanya:20191022172034j:plain ノリノリである。筆が乗りに乗っている。書いたオトナは絶対に楽しんでいただろう。少なくとも、コドモが読むことはあまり想定していないのではないか。コドモを遊ばせるにあたって、オトナが読む。あるいは、当時ここで遊んだコドモがオトナになり、自分のコドモを連れてきた時を想定しているのかもしれない。そう考えると、最後の段落は涙を誘う。自分がその立場だったら、うっかり泣いていしまうかもしれない。

 なお、左右に揺られすぎたのか、残念ながらレールウェイは使用不可の状態だった。f:id:sorobanya:20191022172636j:plain

 

 2つあるなら3つあるはずだ。私は公園内の遊具をすべて見て回ることにした。遊ぶわけでもなく、独りで公園内をニヤニヤしながら歩く成人男性は、端的に言って不審者だろう。特に次に向かったのは「ふわふわ広場」という、幼児向けの遊び場。日が日なら近づくことさえ憚られたと思われる。この日ばかりは悪天候に感謝していた。

 そして、やはり看板はあった。

 

f:id:sorobanya:20191022173321j:plain

 抽象的な年齢設定から始まり、皮肉と冗談を織り交ぜながら、最後は真剣にメッセージを伝えてくる。エンタテインメントだ。「ギャクシースーパーノバ」の説明文がキラリと光る。

 なお、ギャクシースーパーノバは要するにトランポリンっぽいのだが、危険と判断されたのか、肝心の跳ねる部分が撤去されていた。寂しいですね。

f:id:sorobanya:20191022173930j:plain

 

 

 ふわふわ広場の向かい側には少年心をくすぐるアスレチック遊具があった。

f:id:sorobanya:20191022174305j:plain

 絶対楽しいやつだ。こんなイケイケの遊具に対して、南砺市はどのようなウィットを響かせてくれるのか!? とワクワクで看板を見に行ったのだが、至極ちゃんとした内容だった。流石に落ちたら危ないからね。でも、真面目なところはしっかり真面目に。こういった姿勢にもエンタテインメントっぽさ、あると思います。

f:id:sorobanya:20191022174600j:plain

  もとい、そこは行政としての責任感の現れだとも思う。他にも比較的高さがあったり、直接的に大怪我へ繋がってしまいそうな遊具については、ストレートに注意喚起する内容となっている(と思われる)。バランス感覚を持ったユーモアだ。

 

 加えて言えば、そのような遊具の対象年齢は必然的に高くなり、子ども自身が看板を読む可能性も高くなってくる点も関係しているように思う。

 例えば、「岩山クライマー」という遊具がある。

f:id:sorobanya:20191022175609j:plain

 看板はこんな感じ。

f:id:sorobanya:20191022175843j:plain

 小学校中学年以上を対象としていて、かつ滑り落ちる時に頭を打って大怪我をする可能性もあるから、いたって普通の看板なのではないか、ということである。

 ただ、対象年齢が書かれていない遊具のほうが多いので、単に看板製作時期の違いかもしれない。

 

 製作時期の話でいうと、新し目の看板でもノリが健在なので、高度経済成長期の勢いに任せて作ったものの名残、みたいなことではないらしい。

f:id:sorobanya:20191022180606j:plain

  

 ついでに、歴史の長そうな看板の内容はこんな感じである。

f:id:sorobanya:20191022181222j:plainf:id:sorobanya:20191022181659j:plain

 総じて、大人でも興味深く読める+子どもとの会話が生まれる(「これってどういう意味?」みたいな)との効果を狙ったのかな、と思った。その意味では、全く属性外れの私みたいな人間の心を掴んでしまったのは製作者の想定外と言えるか。

 

 調べてみると、この看板に言及されているブログはあるので、そこそこ有名らしい。どこの街にも面白いものはある、と、図らずも日常空間にエンタテインメントを見出す、良き時間を過ごせました。ありがとう南砺市。そしてそんな南砺市に引き合わせてくれたP.A.WORKSもありがとう。劇場版SHIROBAKOの完成、心より楽しみにしております。

*1:余談だが、私はこのような特に合理的とは言えない時間の使い方に一人旅の魅力を感じたりする。